モーリスに距離の壁なし、秋盾2000も完勝 名手ムーア驚嘆「誰も追いつけない」

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距離克服の陰には“日々の積み重ね”

距離克服は長い日数をかけた積み重ねの成果だ 【写真:中原義史】

 実はモーリスの2000メートル挑戦プランは、急にこの夏から秋になって降ってわいたことではない。昨年の安田記念を勝った直後から堀調教師は、2000メートル路線への挑戦に意欲を見せていた。

「モーリスの場合、懸念していたのは燃えすぎる気性のコントロール、そしてゲートでした」

 この2つの課題はもちろん一朝一夕に解決するものではなく、「日々の積み重ねです」とトレーナー。それだけに昨年時点での2000メートル挑戦は時期尚早と見送り、マイル路線に専念した。ただ、その中でも気性とゲートの矯正は日々の調教から、それこそ人間が騎乗していないところから進めていたという。

「気性が燃えすぎると言っても、もともとは賢い馬です。ゲートに関しては去年のマイルチャンピオンシップあたりから普通に出るようになりましたし、前走の札幌記念は出すぎたくらいです。気性のコントロールについても、調教で他の馬の後ろにつけてから3/4馬身だけ突っ込んだところでキープするなど、馬に納得させる形で矯正していきました。そういったことの積み重ねですね。最初は我々人間も含めてうまくできませんでしたが、徐々に馬が受け入れてくれました」

ゲート、道中の折り合い、そして最後の脚と、2000メートルでも完ぺきな競馬を見せてくれた 【写真:中原義史】

 そうした“積み重ね”から生まれた結果が、この日の天皇賞・秋。文句なしの、最高の結果をモーリスが見せてくれた。堀調教師はこれまでの日々を噛み締めるかのように語った。

「非常に強かったなと思います。今まではマイルがベストパフォーマンスかなと思っていましたが、見ようによっては今日のレースがベストパフォーマンスになるかもしれません。馬自身もそうですが、牧場スタッフの皆さん、厩舎スタッフも一生懸命にやった結果ですので、誇らしく思います」

次走の香港がラストラン、マイルかカップか

次走の香港がラストレース、狙うはカップかマイルか 【写真:中原義史】

 晴れてマイル、2000メートルの二冠王となり、次走の香港国際競走(12月11日)がモーリスの現役ラストランとなる。前走の札幌記念2着の時点で「折り合いから見ても距離はもう大丈夫だと思っていた」と堀調教師が振り返ったくらいだから、当然、香港カップがラストランになるかと思ったが、慎重な師らしい言い回しで明言を避けた。

「香港に関してはカップかマイルか、馬の状態や相手関係などを精査して、これから決めていきたいと思います。今のモーリスにとってどの距離がベストなのか、競馬場によってもクセがありますから何とも……。1800メートルがベストということで(笑)」

 マイルか2000か――いずれにせよモーリスが三たび香港で、世界のホースマンを唸らせるスーパーパフォーマンスを見せてくれることには違いないだろう。そして、今年から香港国際競走の馬券を日本にいながらにして買うこともできるとあれば、香港のレースがより身近に感じられるはずだ。ぜひ日本の競馬ファンは、馬券とともにその希代のスーパーホース現役最後の雄姿を熱く追ってほしい。

武豊「難しい」、エイシンヒカリまさかの失速

武豊エイシンヒカリ(右から4頭目・白帽)は早々と馬群に飲み込まれてしまった 【写真:中原義史】

 一方、12着に敗れた武豊エイシンヒカリ。最内の1枠1番からスッと先手を取り、注文どおりの単騎逃げを打つことはできたが、最後の直線は後続を引き離すどころか、抵抗もできずアッサリと馬群に飲み込まれていってしまった。

「レースでの折り合いはつきすぎるくらいついていた。ゲートでもおとなしかったし、あれだけ折り合えたから、いい感じだなと思ったんだけど……。難しいですね、この馬は難しい」

 確かにパドックでは周回するごとにうるささを増し、騎乗命令の際にはついに大暴れして、1頭早めにコースに出ることになった。まさかそれで全ての体力を消耗してしまったということではないだろうが、レースでのあまりの“優等生”ぶりに反してのこの結果に、さすがの武豊も「難しい」と何度も首をひねるしかなかった。

 ただ、「こういう馬ですから」とジョッキーが語ったように、気分良く走って大勝するか、はたまた気分が乗らずに大敗するか――逃げという戦法も含めて、それがエイシンヒカリの魅力でもある。能力を出し切ったときの強さは世界が認めるところだ。モーリス同様に、現役ラストとなる香港の舞台(香港カップ)で、競馬ファンの記憶に残る最高の“光”を見せてくれることを期待したい。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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