J3とBリーグが共存する街にて J2・J3漫遊記 ブラウブリッツ秋田 前編

宇都宮徹壱

今季、上位争いを続ける秋田だが

田中智大によるダメ押しの2点目で勝利したブラウブリッツ秋田。これで4位に浮上した 【宇都宮徹壱】

 J3所属、ブラウブリッツ秋田のホームグラウンドである秋田市八橋(やばせ)運動公園球技場。久々に再訪してみると、名称が「あきぎんスタジアム」に変わっていた。過去の取材ノートを調べてみたら、私が最後にここを訪れたのは2008年9月20日(天皇杯2回戦)だから、もう8年前のことである。東京から秋田へは、新幹線こまちに乗って3時間50分ほど。意外と時間がかかることもあり、すっかりご無沙汰している間に、秋田のスポーツ事情は大きく様変わりしていた。

 10年、JFLに所属していたTDKサッカー部がブラウブリッツ秋田となり、将来のJリーグ入りを目指すことを宣言。同年、秋田ノーザンハピネッツというプロバスケットボールクラブが設立され、bjリーグに加盟している。それからさらに6年の月日が流れ、ブラウブリッツはJ3リーグ3シーズン目となり、今季は一時首位に立つなど躍進。一方のノーザンハピネッツは今年開幕したBリーグの1部(B1)に参戦し、当地では大いに人気を博している。これに、トップイーストリーグ所属の秋田ノーザンブレッツも含めて、秋田にはサッカー、バスケットボール、そしてラグビーの市民クラブが並び立つに至ったのである。

 10月2日、あきぎんスタジアムでブラウブリッツとグルージャ盛岡によるJ3リーグ第24節が開催された。開始わずか2分、秋田の比嘉諒人がカウンターからドリブルで持ち上がり、日高慶太とのワンツーを挟んでシュート。いったんは盛岡GK土井康平がはじくも、これを比嘉が右足で押し込んで、ホームの秋田が先制する。その後はずっと盛岡がペースを握るも、秋田は身体を張ったディフェンスでゴールを死守。そしてエンドが替わった後半25分、秋田はPKのチャンスを得ると、これを田中智大が冷静に決めて点差を広げる。その後も秋田は、ディフェンスの要所をしっかり守りきり、2−0で勝利。同日、カターレ富山が敗れたため、入れ替わりで秋田が4位に浮上した。

 この日は晴天にも恵まれ、あきぎんスタジアムには3380人の観客が詰め掛けていた。今季最高には届かなかったものの(第12節の鹿児島ユナイテッドFC戦で3681人)、今季のホーム平均2135人を大きく上回る数字である。最近の好調ぶりが、そのまま入場者数に反映されていることについては、クラブ側も大いに手応えを感じていることだろう。しかし一方で気になる数字もある。同日、CNAアリーナ★あきたで行われたBリーグのノーザンハピネッツとアルバルク東京の入場者数は4003人。前日のホーム開幕戦(4328人)に続き、またしても満員御礼となっていたのである。

秋田で体感したBリーグの衝撃

秋田ノーザンハピネッツを視察したJリーグの村井満チェアマン(中央)は、いろいろ発見があった様子 【宇都宮徹壱】

 あきぎんスタジアムを訪れる前日、私はノーザンハピネッツのホーム開幕戦を取材していた。Bリーグの試合を会場で見るのは、この時が初めて。室内競技ならではの効果的な照明と音響による演出、ゲームとチアリーディングが交互に登場する連続性、そして間近でプレーが展開される臨場感。普段、サッカーの取材しかしていない私にとり、それらはすべてが新鮮な衝撃であった。

 ルールも観戦環境もまったく異なるサッカーと、安易に比較することは確かに控えるべきかもしれない。とはいえ、あきぎんスタジアムよりも多い観客が、CNAアリーナ★あきたに入っているという事実をとらえるならば、単なる「ブーム」で話を終わらせるべきではない。ノーザンハピネッツのゲームを観戦して、私が注目したのが以下の3点。すなわち(1)近さと一体感、(2)敷居の低さ、(3)年配者の取り込みである。

 まず(1)。室内競技ゆえに、間近で競技が観戦できることは予想できていたが、アリーナに訪れた観客のほとんどがチームカラーのピンクのシャツを身にまとっていたのには驚かされた(70歳のおじいさんは「むしろピンクを着ていないと恥ずかしい」と語っていた)。次に(2)。ピンクのシャツを身に着けていれば、初心者でもハピネッツのブースターの一員となれるし、応援のやり方もスタジアムDJが教えてくれる。そして(3)については、視察に訪れたJリーグの村井満チェアマンが、このような指摘をしている。

「試合前、パフォーマーの人たちがレクチャーしていた応援を、高齢者のお客さんが楽しそうにやっていたんですね。照明にしても音響にしても、確かに派手ではあるんだけれど、お年寄りもちゃんとアクセスできている。それはつまり、高齢者を年寄り扱いしていない、ということなんですよね。秋田は高齢化率が最も高いエリアなのですが、やっぱり高齢の方にどうやってスポーツを楽しんでもらうかというのは、われわれ(Jリーグ)にとってもすごい大事な要素。今日はそのヒントをもらったと思っています」

 ちなみにノーザンハピネッツの水野勇気代表(何と33歳の若さ!)は、「秋田の人口の3割が高齢者ですから、われわれにとって貴重なファン層なんですよね」と語っている。

 実際、アリーナで見たお年寄りは、まるで新しい生きがいを見つけたかのように生き生きとした表情をしていた。してみるとブラウブリッツは、それなりの数の高齢者のファンをノーザンハピネッツに持っていかれることになるのではないか──そんな危惧(きぐ)を私は抱かざるを得なかった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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