DFBが断行した国中を巻き込む大改革 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(2)

瀬田元吾

DFBの役目(2)「ボーナスシステム」

フォルトゥナに昨季まで所属し、U−17代表に選出されたミカ・ハンラース(中央)。「ボーナスシステム」が適応され、彼を輩出した地元クラブにはボーナスが支払われた 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 また、DFBは全国でタレントを育てるための取り組みとして、「ボーナスシステム」を設定している。アマチュアクラブからタレントが育ち、その選手がドイツの育成年代の代表チームで活躍すると、そのタレントを輩出したアマチュアクラブに対してボーナスを支払うのだ。そうすることで、優秀な人材を輩出してくれたクラブがきちんと評価され、恩恵を受けることができる。この仕組み自体は90年代から存在していたが、育成改革の中であらためて重要性が見直された。06−07シーズンからは、さらに手厚いものへと改定されている。

 アマチュアクラブがボーナスを受け取るための条件は、まず選手がU−16〜19(女子の場合はU−17、またはU−19)の代表チームで公式戦に出場しなければならない。また、受け取る資格が得られるのは、そのタレントが過去に2年以上所属し、かつ3部リーグ以上のクラブに限られる。ボーナスの用途も明確にすることが義務付けられており、ボールやユニホーム、トレーニングマテリアルの購入に充てられ、所属する地域サッカー協会によるチェックを受けるのだ。

 ボーナスの金額は、2年間所属したクラブに1200ユーロ(約14万円)、それ以降は在籍年数が1年増えるごとに500ユーロ(約6万円)ずつもらえることになっている。決して高額ではないかもしれないが、タレントを育ててくれたアマチュアクラブに対して、DFBはボーナスを支払う責任を負っているのだ。

部活動チームにも「ボーナスシステム」を

日本でも「ボーナスシステム」を導入すれば、タレントの輩出に注力する部活が出てくるかもしれない 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 タレントはどこに眠っているか分からない。日本よりも遥かに人口が少ない国でも、オランダ(約1700万人)やポルトガル(約1000万人)のように、世界の強国と渡り合っている国はいくつもある。日本の人口は1億3000万人近い。他のスポーツとの兼ね合いがあるかもしれないが、人口の絶対数は他国に比べてアドバンテージがあるといえるはずだ。部活動とクラブスポーツという独特なスポーツ文化を作り上げてきた日本だからこそ、世界を見渡しても現状を打破する正解はどこにもないが、育成改革を成功させている国の考え方を学び、日本独自の育成システムを確立していくことが求められるだろう。

 日本の育成は部活動が中心となるが、部活では1つのチームに不特定多数の部員が所属し、チームによっては多くの補欠が存在せざるを得ない状況を生む。そのため、タレントを埋もれさせてしまう危険性を秘めている。また、中学校、高校、大学でそれぞれ結果を求めたチーム作りや指導を行ってしまうことが、一貫指導の弊害とも言われている。

 日本では学校単位で部活を行うため、基本的には同じ場所で3年間(ないし4年間)プレーすることになる。各年代に適した指導を行うことさえできれば、実は選手に時間を与えながら育てることができる可能性も秘めている。ドイツでは試合に出ることが最も重要なことであり、出場経験が得られないのであれば、それが得られるチームを探すことが正しいと考えられている。私自身、この考えには大いに賛成ではあるが、それはドイツが「国として」一貫指導を徹底しているからこそである。

 日本の場合、全国の部活動チームがそれぞれのカテゴリーにあるトーナメント大会の結果で評価されてしまう。これにより一貫指導ではなく、所属カテゴリーごとに完結する指導となってしまうことが問題視されがちだ。例えば、DFBの「ボーナスシステム」を参考に、例えばユース年代の代表選手を輩出した部活動チーム(出身校)に、日本サッカー協会(JFA)がボーナスを支払うようにしてもいいのではないだろうか。そうすることで、必ずしもトーナメント大会で好成績を収めることだけではなく、タレントを輩出することに注力する部活動チームが増えていく可能性も十分にあるのではないかと思う。

 そのためには、JFAが目指す指導指針を、もっとしっかりと全国に浸透させていくことが不可欠だ。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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