ルヴァンカップの最大の焦点は遠藤vs.柏木 新旧代表のボランチ対決を制するのは?

戸塚啓

攻守にさりげなく仕事をする遠藤保仁

36歳となった今も、攻守において輝きを見せる遠藤 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 遠藤はフィジカルを支えとするタイプではない。運動量ではなくポジショニングの巧みさで、相手のマークから逃れる。技術がさびつくことはなく、経験によって試合を読む力は磨かれているので、ピッチで表現できることはむしろ増えている。ほんの少しのスペースとわずかな時間があれば、決定的な仕事ができる。それは彼が衰えを感じさせない最大の理由だ。

 攻撃力に優れるMFは、守備のセンスもある。味方ディフェンス陣が「ここは大丈夫だ」と感じているスペースでも、「自分なら使える」という視点を持つ。それにより表面化していない危機を、未然に防ぐことができるのだ。

 危ないと思う場面に、遠藤はさりげなく顔を出す。スペースをあらかじめ埋めたり、マークについたりするだけでなく、躊躇なく身体を投げ出す。危機察知能力は、このところさらに高まっている。ボランチでプレーしていても、トップ下で起用されても、彼の影響力はピッチの全域にまで及ぶ。

 柏木も守備力を上げてきた。ハリルホジッチ監督が求めるデュエル(1対1の競り合い)を意識し、激しくボールを奪い切る能力を装備しつつある。もっとも、3バックと阿部勇樹のしっかりとしたリスク管理によって、ディフェンスにエネルギーを割かれるようなゲームは少ないが。

 浦和の背番号10がまぶしい輝きを放つのは、攻撃がこう着した局面だろう。ブロックを敷いてくる相手の守備を剥がすために、柏木は長短のパスを前線へ、サイドへ、テンポ良く出し入れしていく。ゴールへ直結するラストパスはもちろん、アシストのひとつ前のパスも多い。

 おそらくそれは、浦和の攻撃が良い意味で柏木に寄りかからないからだろう。宇賀神友弥、関根、駒井善成らがワイドなポジションから突破をはかり、興梠慎三、李忠成、武藤雄樹はリーグ戦で2桁得点をマークしている。リーグで川崎に次ぐ57ゴールをマークしている浦和は、どこからでも得点を奪えるチームだ。

ルヴァンカップで主役を演じるのはどちらか?

遠藤(右)と柏木(左)。ルヴァンカップを制し、主役を演じるのかどちらだろうか 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 遠藤も柏木も、マルチな才能の持ち主だ。ユーティリティー性に溢れ、攻守両面でチームに貢献し、FKやCKではキッカーを務めている。彼らのチーム内での立ち位置は似たものがある。遠藤にあって柏木にないもの、柏木にあって遠藤にないものを探すのは、少しばかりナンセンスかもしれない。

 彼らは同世代ではない。学年で8つの開きがある。36歳の遠藤がより多くの実績を積み上げているのは、きわめて当然なのだ。とはいえ、28歳当時の遠藤がすでに到達していた領域へ、柏木がたどり着いていないのもまた事実だ。W杯アジア最終予選で、柏木は背番号7を背負っている。それはかつて、遠藤のアイコンだった番号だ。そして、日本代表の戦いぶりが不安をあおっているなかで、柏木はスタメンに定着できていない。遠藤の後継者たる成果を、代表でもクラブでも残せていないのだ。

 歴戦の勇士が健在ぶりをアピールし、G大阪を頂点へと導くことで、色あせない技術と豊かな経験の価値を日本サッカー界に広く示すことになるのか。無冠のレフティーが浦和にタイトルをもたらし、日本代表でのポジション奪取の足掛かりとすることで、ベテランたちがけん引するJリーグで、主役に躍り出るのか。

 今回のルヴァンカップには、たくさんの見どころがある。そのなかでも「遠藤vs.柏木」という視点を最大のものとして推したい。G大阪と浦和のどちらが勝利をつかみ、遠藤と柏木のどちらが主役を演じるのかによって、今後の日本サッカーの歩みが変わっていくからだ。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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