「総合力」の違いを示した青学大のV 早稲田大OB八木勇樹が出雲駅伝を解説

構成:スポーツナビ
――序盤の3区までで1年生3人をそろえた東海大がトップに立ちました。

 1区、2区、3区で1年生を並べてきたというのは、過去にもあまり例がないことだと思うのですが、東海大の1年生が非常に力があるということで、両角(速)監督が1年後、2年後を見据えた配置をされたと思います。目標も3位以内から優勝と上方修正していると聞きました。ここ1、2カ月の練習も非常に充実していたんだと思います。それが本当にバッチリはまったなと。

 初めて大学駅伝に出場する選手が3人いる中で、3人ともが他大学の有力選手と互角以上に戦えていたと思います。特に3区の關選手は本当に良い走りでした。青山学院大の下田選手は、今年の東京マラソンで結果を残した選手(日本人2位、全体10位)ですし、關選手は1年生ということもあり、多少物怖じすることがあってもおかしくない。にもかかわらず中盤から戦況を見切って、おそらく自分のリズムで走れば「いける」と思って前に出た。今後の全日本大学駅伝や箱根駅伝、もっと先の1年後、2年後を見たときに、非常に期待できる1年生だなと思いました。

1年生の活躍もあり、3位に入った東海大。このあとに続く全日本大学駅伝や箱根駅伝に向けて、期待が高まってきそうだ 【写真は共同】

――戦前は6強と言われていましたが、明暗がくっきりと分かれました。その要因は何だったのでしょうか?

 青山学院大、山梨学院大、東海大の3校は、出雲駅伝という距離の短い駅伝で本当に良い流れに乗れたと思います。その一方で駒澤大、東洋大、早稲田大は1つの区間のミスを取り返せなかった。1人で戦況をガラッと変えて、チームに流れを取り戻すような走りができなかったこともあり、前半にオーバーペースで突っ込んで、後半失速するという駅伝特有のミスが出ていたと思います。駒澤大はエース級の工藤(有生)選手を3区に配置していましたが、工藤選手も走りが良くなかった。優勝を狙っていくうえでは中谷(圭佑)選手を欠いていた影響もあったんだと思います。

――八木選手の母校である早稲田大も8位と厳しい結果に終わりました。

 出雲駅伝は1区で流れに乗らないと優勝は難しいので、そこで平(和真)選手を持ってきました。他大学の選手と比べても区間賞候補だったと思います。ただ6キロあたりから不安そうな表情になって、うまく力を使えずに失速してしまいました。そこがもったいなかったなと。1区の差がもう少し縮まっていれば、2区の1年生・新迫(志希)選手も少し楽に前を追うことができたと思うのですが、逆に焦ってしまって、空回りしてしまったのかなと思います。やはり1区でエース級を投入したチームはしっかり上位にいかないと、他の区間の選手が不安に思ったり、チームの流れに大きく影響してしまうので、そこが全日本大学駅伝に向けて修正すべきところだと思います。

重要となってくるスタミナの強化

――出雲駅伝の結果を受けて、このあとの全日本大学駅伝、箱根駅伝へと勢力図はどう変わっていくと思いますか?

 全日本大学駅伝は出雲駅伝と比べて、距離も長くなるし、区間も多くなるので、チームとして選手層が厚くないとなかなか上位では戦えない。そういった中で毎年上位に来る駒澤大、東洋大は今回の出雲駅伝では満足いく結果ではなかったと思いますけど、確実に修正してくると思います。

 青山学院大は目標にしている3冠の1つをクリアしました。距離も特性も違う3つの駅伝を勝つというのはすごく難しい。青山学院大は次の全日本大学駅伝が1つのポイントになると思います。戦力が整っていながら全日本大学駅伝では勝てていない。特にアンカーがポイントになることでしょう。今回の出雲駅伝みたいに1区から流れを作れれば、次も優勝候補筆頭になると思います。

 山梨学院大もニャイロ選手の力だけで2位になったわけではない。流れとしても良かったと思うので、距離が伸びたときにどのようにして青山学院大に対抗していくのか。あとは、僕としては母校の早稲田大ですね(笑)。平選手も次はしっかりと力を出してくれると思いますし、長い距離に強い選手がそろっているので、全日本大学駅伝はもう少し順位を上げてくれると期待しています。

――箱根駅伝まで2カ月半。3冠経験者として、どのように過ごしていけば良い結果を得られると八木選手はお考えですか?

 出雲駅伝は夏合宿が終わってから、全日本インカレを挟んで、短い距離のレースになるので対応が非常に難しいんですね。夏合宿で30キロ走とかを多くやっている大学ほどうまく対応できない。ただ全日本大学駅伝、箱根駅伝になるとスタミナの要素がすごく重要になってくるんです。東海大は今大会を見ても分かるようにスピードは申し分ない。そこにスタミナをどう加えていくか。

 あとは箱根駅伝だと20キロの距離で10区間になります。そのため、どれだけ故障者を減らして、きちんと20キロを走れる選手を育てていくのかというところが課題となってきます。距離にしっかりと対応できるようになりながらも、高速化が進んでいるので、スピードも生かし、そのうえでスタミナを強化して箱根駅伝につなげていかないと、優勝争いは厳しくなると考えています。

【写真提供:YAGI RUNNING TEAM】

■八木勇樹(やぎ・ゆうき)
1989年10月17日生まれ、兵庫県出身。
西脇工高時代に長距離ランナーとしての才能を開花させ、早稲田大に進学。大学3年次には競走部主将を務め、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝を制し大学駅伝三冠を達成した。卒業後は旭化成に入社。実業団ランナーとして活動するが、2016年6月に退社すると、7月にプロ転向。現在は「YAGI RUNNING TEAM」を設立し、代表として活動を始めている。

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