試行錯誤の「サンパオリ&リージョ体制」 清武はしっかりとチームに根を下ろす

木村浩嗣

攻撃サッカーと堅守の両立はなるか

トップ下では最もシュートとアシスト能力に長けるバスケス(写真)がサラビア、清武とともに、現在のファーストチョイス 【Getty Images】

 サンパオリ&リージョのサッカースタイルの特徴は、トップ下タイプのテクニシャンをボランチや左右のインサイドMFでも使うところにある。もともとFWの後ろで生きるタイプなのだから守備は苦手な選手がほとんどで、「テクニシャンを集めればボール支配率が上がって守備機会が減るから、個の守備力不足はカバーできる」という理屈なのだが、もちろん個として守備ができるに越したことはない。

 トップ下タイプ全員が、清武並みにテクニックがあるのに守備もでき、さらにFKも任せられる攻撃寄りの万能MFであれば、サンパオリ&リージョのサッカーは機能すると思う。だが、そうもいかないので人選と並び、組み合わせを工夫して、魅力的な攻撃サッカーと堅守を両立させようと四苦八苦しているわけだ。

 これまで試されたフォーメーションの中で、トップ下タイプの選手に与えられているポジションは「トップ下+左と右のインテリオール(インサイドMF)」の3つである。トップ下では5人の中で最もシュートとアシスト能力に長けるバスケスが、左インテリオールではスピードとドリブル、運動量があるサラビアが、右インテリオールではキープ力と守備力と運動量がある清武がファーストチョイスとなっている。

清武はDFラインからのボール出しにもっと貢献を

清武経由のボール出しパターンが定着したときには、チームに絶対外せない存在になっているはずだ 【Getty Images】

 この3人を外側から左右のサイドバック(SB)が挟み込み、後方にはヌゾンジと左右CBが控え、前に2トップまたは1トップ+ビトロがいる形、「3−5−2」または「4−1−4−1」がスタンダードで、3人の誰かに代わってガンソやナスリが入った時にはチームは機能していない。ガンソは体がキレておらずボールロストやパスミスが多いこと、ナスリはボールタッチが多くパスも正確だが、ドリブルやシュートが物足りない上に負傷中。サンパオリ&リージョがトップ下タイプに守備を求めない人選や組み合わせを発見しない限りは、清武のレギュラーの座は安泰と言ってもいい。

 周りの選手と清武の相性で言えば、右SBのマリアーノとはゴール前の飛び出しを誘うパスの出し手、受け手として息の合ったコンビを見せている。バスケスやサラビアともパスのやり取りでリズムを作ることができている。一方、改善の余地があるのが、右CBのパレハ、右ウイングのビトロとのコンビ。古参の2人にはまだ信頼されていないのか、ボールを渡されることが少なく、清武がもらいにいってもパレハはロングボールを蹴ってしまうし、ビトロはドリブルに固執しがちで、互いの良さを引き出し合っていない。

 もうひとつ、今後の課題ということで言えば、清武にはディフェンスラインからのボール出しにもっと貢献してほしい。ディフェンスラインからスムーズな球出しができず、ボランチがプレスの標的とされてボールロストしてカウンターを食らう、という形での失点が重なっている。現状、バスケス、サラビア、清武が交互にヌゾンジをフォローするやり方になっているが、ボールキープ力と瞬時の判断力、守備力から考えて3人の中で最も向いているのは清武である。清武経由のボール出しパターンが定着した時には、サンパオリ&リージョにとって絶対に外せない存在になっているはずだ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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