人気低迷と言われるF1界だが… モータースポーツの成長戦略を紹介

田口浩次

マレーシアGPが秋開催になった意図

2001年から15年まではシーズン第2戦として3月末から4月初旬でのF1開催だったマレーシアGPだが、16年は秋開催に変更になった 【Getty Images】

 ここまでは、次世代モータースポーツファンの開拓を目指す異なる手法の戦略だったが、次に紹介したいのは、既存のモータースポーツファンをいかにサーキットに呼び込むことができるかを目的とした戦略だ。

 今シーズンのF1カレンダーは、例年春先に開催されていたマレーシアGPが、秋の日本GPの前戦、国としてはライバル関係にあるシンガポールGPの2週間後というタイミングにスケジュールが移動となった。正直、秋にアジア圏でF1レースが3戦連続するのはビジネス的にどうなのか、と疑問が生じたので、マレーシアGPの開催地であるセパン・インターナショナル・サーキットのダト・ラズラン・ラズリCEOに話を聞くと、その質問を待ってましたとばかりに、そこには戦略的な意図があったのだと説明を始めた。以下、やや長いが紹介しよう。

「F1ジャーナリストの方には釈迦に説法ですが、ここ数年のF1観戦者数減少は、多くのF1開催国が抱えている問題かもしれません。そんななか、マレーシアGPに限って言えば、外国人ファンの観戦者数は毎年増加しています。ただ、マレーシア人観戦者数が減少しているのです。その対策として、レース開催日程をシーズンの後半に持って来ることができないかとFIAに交渉した経緯があります。

 というのも、夏以降に開催日程を移すことで、春に開催するよりもキャンペーンや告知活動といった、観戦者数を増やすためのリードタイムを稼ぐことができます。

 また、国外のファンにとってもシンガポールGPや日本GPとの連戦となることで、世界中からマレーシアに呼び込むチャンスも増えたと考えています。中長期のバケーションを楽しむ層にとって、春と秋、2回長期休暇を取るより、このシーズンにまとめて長期休暇を取り、レースを複数回観た方が少ない予算でレースを楽しめます。人によっては、シンガポール、マレーシア、日本と3戦連続でF1を見るかもしれませんし、予算や中身を比べて、東南アジアでの休暇に合わせて、この3戦のなかから1戦もしくは2戦を観戦しようと考えるかもしれません。休暇を含めた価値としてマレーシアGPは自信があります。

 それに、グランプリ開催日程の変更はマレーシアだけのためでもなく、シンガポールや日本にとって相乗効果を生むと思います。F1観戦は決して安い趣味ではありません。でも、せっかくなら何度も現地観戦をしたいとも願っているファンはいるはずです。今回のマレーシアGPの日程変更によって、そうしたチャンスが生まれます。マレーシアGPと日本GPは間を置かない連戦ですが、シンガポールGPとマレーシアGPは1週間のオフがありますから、そこは近場のリゾートで骨休みを楽しむなんてことも可能です」

 たしかに、その説明にはそれなりの説得力を感じる。さらに観客動員数増加を狙う別の事情も明かしてくれた。

「もちろんありますよ。セパン・インターナショナル・サーキットでは、バイクレースの最高峰であるMotoも開催しています。そしてMotoに関しては、すでに大ブームの状態です。観客者数もほぼ満員。正直、現在MotoGPの人気はF1よりずっと高い状態ですので、テコ入れ策が必要なのはF1なのです。マレーシアのMotoGP開催は10月28〜30日とF1開催日の約1カ月後です。すでに沸騰しているMotoGP開催が近くなれば、他のレースにも興味が沸くファンも出てきます。そうした国内のファン層に向けて、F1をアピールしたいのです。

 MotoGPのキャンペーンと同じようにリードタイムを稼ぎ、その人気に相乗りすることで、確実に観客数は上向くと思います。われわれセパン・インターナショナル・サーキットのF1開催契約は2018年までなので、その間にレース観客数を増やす。昨年のようにメルセデスが圧倒的に強い状況でも、できることならばマレーシアGPで王者が決まるような展開となり、観客を呼び込むニュースになってくれればと思います(笑)。われわれは継続開催を目指していますから、着実にファンが増えることで、契約更新の後押しができればと思っています」

 F1レースの開催料金の高騰は、世界中のF1開催地にとって頭の痛い問題だが、21戦まで増えた現在では、一度落選したら、復活は厳しいと誰もが感じている。であれば、少なくとも開催料に見合った経済効果があると示し、契約更新を狙うのは当然だ。そうしたシビアな現実という意味でも、マレーシアGPは次の世代までF1開催を確保すべく、手を打っていると言える。

台湾で展開する鈴鹿サーキットの事例

 こうした国際マーケットを主戦場に戦いだしたF1開催地だが、1987年からの歴史を誇る鈴鹿サーキットも、そのネームブランドを世界に広げ、さらに高めるべく、新たなビジネス戦略を進めてきた。それが、台湾の高雄市に5月9日にオープンした『鈴鹿サーキットパーク』だ。これは、高雄市のショッピングモール『タロコパーク・カオシュン』に鈴鹿サーキットを模したカートサーキットを含めたアトラクションの数々を複合的に設置したもの。なかでも注目はカートサーキットで、本コースの立体交差までを再現した。2013年に契約合意しており、まさに日本におけるF1の人気が徐々に落ちていくのを感じるなか、鈴鹿サーキットは早々に手を打っていたことになる。

 この『タロコパーク・カオシュン』は高雄国際空港から地下鉄で1駅、中心部の高雄駅からも7駅と、アクセスは抜群。鈴鹿サーキットのブランディング戦略として、今後を注目したい施設だ。

 このように、F1人気凋落という世間の声に対して、傍観しているわけではない現在のF1界。中長期的な戦略は見えてきただけに、次は無料テレビ放送が途切れてしまっている現状をいかに打破していくのか、より短期的な戦略も求められていくに違いない。

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