プロのスカウトが台湾で見極めたもの 日ハムとオリックスがU-18をフル視察

週刊ベースボールONLINE

日本ハム、オリックスの2球団は1次ラウンドからフルカバー。ネット裏からグラウンドへ鋭い視線を送っていた 【写真=BBM】

 2016年のドラフト戦線もいよいよ佳境に突入した。今夏の甲子園で活躍した選手を中心に組まれた侍ジャパンU−18代表が参加した「第11回 BFA U−18アジア選手権」(台湾/8月30日〜9月4日)を通して候補選手の何があぶり出されたのだろうか。今回、台湾にスカウトを派遣した各球団の“目”に迫る。

現地に行かない“判断”

 2007年以降、大学生・社会人の有力選手が希望する球団を選択できる93年のドラフトから行われてきた「逆指名」(のち自由獲得枠、希望入団枠)が撤廃された。現行制度上、10月20日のドラフト会議まで、12球団は横一線。1位指名は「同時入札」。スカウトはかつてのようにラブコールを送る対象選手に密着マークして、“誠意”を見せる必要はなくなった。

 18人の精鋭が顔をそろえたU−18侍ジャパン。台湾で開催された今大会は、はっきりとスタンスが分かれた。すなわち、現地へスカウトを派遣するか否か、である。ただ、すべては球団の方針で、どちらが「正解」ということはない。

 立大との練習試合が行われた8月26日、ある幹部はこう言った。

「ボーダーラインの選手がいるならともかく、今年の場合はすでに1位候補」

 このドラ1候補とは説明するまでもなく、花咲徳栄高・高橋昂也、横浜高・藤平尚真、履正社高・寺島成輝の“BIG3”に加え、今夏の甲子園優勝で3人と肩を並べた作新学院高・今井達也だ。この「逸材カルテット」については、ファイナルアンサーが出ているという“話”である。

 台湾へ足を運ばない理由はもう一つあった。今夏の甲子園を通じ、16年の高校生ドラフトの傾向は「超投高打低」。やや、厳しい表現を使えば「野手不足」が顕著な年である。例えば12年(W杯=韓国)の花巻東高・大谷翔平(現北海道日本ハム)、13年(W杯=台湾)の大阪桐蔭高・森友哉(現西武)、昨年(W杯=日本)の関東一高・オコエ瑠偉(現東北楽天)、仙台育英高・平沢大河(現千葉ロッテ)というレベルならば、木製バットの対応を確認したいところ。今回は、8月25日の早大、26日の立大との練習試合、そして27日の大学ジャパンとの壮行試合(QVCマリン)で視察することができれば十分、という“判断”からきている。

“プロ”の目で見る資質

今年のドラフト1位候補と目される作新学院・今井、花咲徳栄・高橋、横浜・藤平、履正社・寺島 【(C)SAMURAI JAPAN】

 今大会、6試合の全日程をフルカバーしたNPB球団は2チーム(途中から派遣してきたのは福岡ソフトバンクの山本省吾、稲嶺誉両スカウト)。遠藤良平GM補佐ら最多5人を送り込んできたのは、北海道日本ハムだ。香港との1次ラウンド初戦(8月30日)には、日本の打撃練習開始の1時間以上前には球場入りするほどの熱の入れようだ。大渕隆スカウトディレクターは視察目的を言う。

「(高校日本代表を)毎年見ていますが、これだけ好投手が集まった覚えはない。彼らの成長期を見極めていく作業の中で、この後は9月から本格化する大学生との比較になる」

 オリックスも初日から加藤康幸編成部長と、中川隆治チーフスカウトの2人体制。スタンドから見守った加藤編成部長は興味津々に語った。「ターゲットの選手が多いのは確か。異なる環境の中でも持ち味を発揮し、どうアジャストできるか。映像からは判断できない『艶つや』の部分が見える」

 技術チェックはもちろんのこと、視察球団に共通しているのが、資質の部分。加藤編成部長が「アスリートとしての準備、いかに自分を制御できるか」と言えば、大渕スカウトディレクターは「ふとした動き、態度から自チームでは見せない『色』が出る」と明かす。練習開始から30分足らずで発言力の強い「ボスタイプ」や「ムードメーカー」を察知していたあたり“プロ”の目は違う。

 グラウンドを離れれば食事、文化の違いなど、日本では考えられないストレスが伴うのが、国際大会の常。試合でも球場の形状、ストライクゾーンなど想定外の現実を受け入れなければ戦えない。プロ野球とは生存競争の激しい“弱肉強食”の世界。スカウトにとって今大会の視察を経て、台湾でしか得られない資料の1項目がアップデートされるのである。
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