初戦を失った日本に求められる「謙虚さ」 UAE戦の敗因と最終予選の厳しい現実

宇都宮徹壱

不用意なミスによる2失点と「幻のゴール」

浅野のシュートはゴールラインを割ったかに見えたがノーゴールの判定 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 最初に試合が動いたのは前半11分だった。ペナルティーボックス右でFKのチャンスを得た日本は、清武の山なりのクロスにファーサイドで待ち構えていた本田が巧みなダイビングヘッドを決めて先制。これで初戦の固さはほぐれたかと思われた。この時の状況について、本田は「(チームの)意思統一としては、(追加)点を取りにいく方向でいっていたと思います。ただ結果論として、(ゲームを)コントロールした方がよかったという反省はあります」と語っている。

 ホームゲームであること、そして1点だけでは心もとないことを考えるなら、追加点を取りにいくという方向性そのものは問題なかったように思う。ただしそのプランは、前半20分のUAEの同点ゴールによって揺らいでしまう。大島から酒井宏への不用意な横パスが相手に渡り、7番のアリ・アハメド・マブフートが速攻からドリブルで仕掛けた際、対応した吉田の腕が掛かって相手を倒したとしてファウルの判定(吉田にはイエローカードが提示された)。ペナルティーエリア正面からのFKのチャンスを得たUAEは、11番のアハメド・ハリルが豪快なキックを決めてスコアをイーブンとする。

 ハーフタイムを終えた時点では、まだ心理的な余裕があった日本。しかし後半9分には致命的なPKを与えてしまう。これまたきっかけは、自陣で長谷部がボールを奪われるという、実に「らしくない」プレーであった。ペナルティーエリア内でボールを回され、ボールキープする15番のイスマイール・アルハマディを3人で囲んだものの、大島が足を引っ掛けたところでホイッスル。このPKを再びアハメド・ハリルに決められ、ついに日本は逆転を許してしまう。

 その後の日本は、矢継ぎ早に攻撃の選手を入れ替える。後半17分、清武OUT/宇佐美貴史IN。21分、岡崎OUT/浅野拓磨IN。30分、大島OUT/原口元気IN。そして最後のカードを切った直後の後半32分、日本に決定的な瞬間が訪れる。右サイドからの酒井宏のクロスに本田がヘディングで折り返し、これを浅野が左足でシュート。リプレイ映像を見る限り、ボールは相手DFがクリアする前にゴールラインを割っているように見えたが、レフェリーの判定は何とノーゴール。浅野のシュートが「幻のゴール」となったことで、試合は1−2のまま終了。日本は大切なホームでの初戦を落とすこととなった。

残り9試合を日本はどう戦うべきか?

日本の敗因はどこにあったのだろうか。残り9試合に向けて必要なことは? 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 果たして、日本の敗因はどこにあったのか。

 まず言えるのが、先に挙げた3つの懸念事項が、ことごとく試合内容に反映されてしまったことである。準備期間の差は、明らかにUAEに軍配が挙がった(彼らはしっかり日本戦に照準を合わせていた)。コンディションのばらつきも、欧州組が半数以上の日本の方が深刻だった。そして相次いでけが人が出たことで、経験不足の選手やコンディションが万全でない選手を起用せざるを得ず、それが思い切り裏目に出た(指揮官も「私のチョイスが悪かった」と認めている)。これらに加えて、失点につながるようなミスが自陣で頻発したり、微妙なジャッジに泣かされたりという、想定外のアクシデントも重なった。

 とりわけ想定外だったのが、この試合を担当したカタールの審判団である。2失点目のPKは認めるとしても、「われわれもPKを吹いてもらえる状態だったのに認められなかった」とハリルホジッチ監督が語るように、とにかく日本に不利な判定が目についた。そもそも東アジアと中東の試合で、中東の審判団が担当するのも極めて不自然に感じられる(もちろん東アジアの審判団が日本に有利な笛を吹くとは思えないが、少なくとも対戦相手が不信感を抱くことになるだろう)。さらに気になったのが「誰が笛を吹くのか、われわれの関係者も誰も把握していない体たらくだった」という指揮官の発言。真実だったとすると、JFA(日本サッカー協会)に甘さがあったと指摘されても仕方あるまい。

 とはいえ、すべては終わったことだ。裏の試合では、オーストラリアがイラクに2−0、サウジアラビアがタイに1−0でそれぞれ勝利。日本は6チーム中4位となり、ここから本大会出場権を獲得できる2位以内を目指すことになる(3位の場合、アジア5位決定戦と大陸間プレーオフを勝ち抜けば本大会への道は開かれるが、今は考えないでおこう)。また「現在の予選方式になって、初戦に敗れたチームは本大会に出場できない」というデータも、それほど深刻に捉える必要はないと思う。この試合で明らかになった問題点をきちんと認識しつつ、しっかり切り替えて残り9試合を全力で戦っていくしかない。

 その上で、今の日本(選手、監督やJFAのみならず、ファンやメディアも含めて)に求められるものをひとつ挙げるならば、現実を受け入れる「謙虚さ」だと思う。冒頭で述べたとおり、「日本はもはやアジアの絶対的な強国ではない」。FIFA(国際サッカー連盟)ランキングではグループでトップだとか、過去5大会連続でW杯に出場しているとか、前線の4人が欧州4大リーグでプレーしているとか、そういったファクトは本大会に楽々と導くための担保とはなり得ない。その厳しい現実を、われわれは謙虚に受け入れる必要がある。

 アジアにおける優位性が、明らかに失われつつある日本。そんな中、われわれに求められることは、かつてのおごりを捨てて自分たちの足元を見つめ直し、そしてロシアを目指して死に物狂いで戦い続けることだ。それは決して難しいことでも、恥ずかしいことでもない。W杯アジア最終予選とは、本来そのようなものであったはずだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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