「初めて本気で勝ちたいと思った」 山口茜を感化させたバド日本人対決

平野貴也

「本当に強ければ、プレッシャーは感じない」

五輪での敗戦を「初めて本気で悔しかった」と振り返った山口。4年後への豊富を語った 【Getty Images】

――今大会では、女子ダブルスの高橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)が日本初の金メダル、奥原選手が女子シングルス初の銅メダルを獲得して歴史を変える大会になりました。山口さんにとって、どんな刺激になりましたか?

 五輪をちゃんと見たのは、北京五輪が初めてだったんですけど、その時に日本(女子ダブルスの末綱聡子、前田美順組)が初めてベスト4に入りました。その後、次のロンドン五輪では(藤井瑞希、垣岩令佳組が銀)メダルを取ったので、日本はそれくらい強いというのが、私にとっては普通の感覚です。だから、(高橋、松友組の)金メダルはすごいと思いますけど、そんなに驚くことではないかなというのが正直な気持ちです。日本人の誰がメダルを取っても、ビックリする時代ではないと思っています。奥原さんも普段から(スーパーシリーズファイナルや全英オープンを優勝するなど、世界一とも言えるタイトルを取るほど)強いですし。

 昔は、日本の選手が中国の選手に絶対勝てなかったという時期があったと思いますけど、自分がプレーしている時代では、当たり前に勝つとまではいかないですけど、勝っても「よくやったね」というくらい(で快挙などではない)です。ただ、体操の内村(航平)選手(コナミスポーツ)とか、見ている方は勝って当たり前と思ってしまうほど強い選手でも、金メダルを取ると本気で笑ったり泣いていたりしているのが印象的で、五輪はそういう選手でも勝って当たり前の舞台じゃないんだと思って、高橋さん、松友さんの金メダルは(自分が思うより)すごいことなんだなとも感じました。

――では、自分の出場種目で金メダルを獲得したカロリナ・マリン選手(スペイン)を見て感じたことは?

 世界ランク1位で、どんな時でも力を発揮できてすごいと思います。決勝戦も最後まで引かず攻めたのはマリン選手だったので、最終的に勝ったんじゃないかなと思いますし、メンタルも強いと思います。ただ、他の大会では何度か対戦していて、勝ったこともあるので、自分も勝てなくはないと思います。そういう意味では、自分にもまだまだチャンスがあるというか、これからもう少し上にいけるんじゃないかなと思います。

――4年後の東京五輪でメダル候補になると期待されている部分もあります。気の早い話ではありますが、2020年を含めた今後の抱負を聞かせて下さい。

 東京五輪でメダルを取りたいなどの目標は、まだ決めていません。ただ、今回は、参加選手の中でもランキングが下で、試合に勝ちたい気持ちと強い相手に向かっていく気持ちが重なって勝ち進むことができました。でも4年後はもっと力をつけて、もう少し上位のランキングで出られるようになっていたいなと思っています。

――ランクが今より高まっていれば、メダル候補どころか「金メダルを!」という期待になっているかもしれません。そうなった場合はプレッシャーを感じるかもしれませんね。

 それは、どうなんですかね。緊張はしても、本当に強くなっていれば、プレッシャーは感じないかなと思います。極端な例ですけど、国際大会に出るような選手が小学生を相手にする時、そんなに本気で「勝ちたい!」とは思わないですよね。周りの人が「勝って当たり前」と思うほどに強ければ、当たり前のレベルで勝ち上がれるようになるのかなと思っています。まあ、でも、自分にそこまでの強さを求めてはいないんですけど(笑)。そんなふうになったら(強い人に勝ちたいと思う)楽しさがなくなってしまうと思うので。

――最後に、今回の五輪の総括と、日本で応援してくれていた方へのメッセージをお願いします。

 周りの選手が特別な感情を持っている五輪という大会で、自分はいつも通りかそれ以上の力を出せて、自分のプレーができたという感触なので、それは良かったと思っています。もともと、相手のレベルが高ければ高いほどやる気が出る性格なので、楽しい大会でした。次の五輪ではなくて、次に自分が出る大会にすぐつながっていく大会になったと思っています。日本で応援してくれた人には「たくさんの応援をありがとうございました」と言いたいです。
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 自分のためにプレーし、応援を受けることが純粋な喜びでしかなかったバドミントン少女は、高校を卒業して社会人となり、大人のアスリートへと成長しつつある。彼女が初めての五輪で感じたのは、自分だけの満足や悔しさではなかった。良いプレーがたくさんの人を喜ばせ、失敗は自分だけでなく他の人もガッカリさせること。多くの人々から期待を受けて応援されるトップアスリートならではの醍醐味に、彼女は気付いたのだ。4年後の東京五輪で山口がメダル候補となっていたならば、リオ五輪は間違いなく大きな転機となっているはずだ。本気の悔し涙を見せた山口の今後が大いに楽しみだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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