大量補強を強いられたドルトムント 香川が担うべきリーダーの役割

中野吉之伴

チームの屋台骨を支えてきた3人が移籍

これまでドルトムントを支えてきたフンメルス(右)、ムヒタリアン(中央)らが移籍を決断した 【Getty Images】

 オスマン・デンベレ、ラファエル・ゲレイロ、セバスティアン・ローデ、エムレ・モル、アンドレ・シュールレ、マリオ・ゲッツェ、マルク・バルトラ、ミケル・メリーノ。

 ドルトムントが今季獲得した選手は上記の8人だ。ここまで大量補強したのは久しくない。人数だけではなく、移籍に費やした総額でも推定で1億1000万ユーロ(日本円で約124億円)に上り、これは『ビルト』紙によると、過去ブンデスリーガにおけるレコードだという。資金力ではワンステージ上のバイエルン・ミュンヘンでもアルトゥーロ・ビダル、ダグラス・コスタ、ヨシュア・キミッヒらを獲得した2015/16シーズンの8850万ユーロ(約100億)が最高だったのだ。それだけの投資をしなければならない事情がドルトムントにはあった。

 チームの屋台骨を支えていたマッツ・フンメルス、ヘンリク・ムヒタリアン、イルカイ・ギュンドアンの3人がそれぞれ新天地を求めて、移籍を決断した。これまでも主力選手がチームを去ることはあり、毎年恒例の出来事だった。2011年にはヌリ・シャヒン、12年は香川真司、13年はマリオ・ゲッツェ、そして14年はロベルト・レバンドフスキ。エース級の選手が次々といなくなり、その穴を埋めるのは並大抵の作業ではなかったが、ピンポイントの補強や新しい取り組みなどで対策を講じて乗り越えてきた。

 だが、今回は替えの利かない選手が一気に3人も抜けたのだ。チーム作りの苦闘ぶりはこれまでの比ではない。確かに代役となり得る選手は獲得できたものの、そう簡単にドルトムントのチームスタイルになじめる保証はどこにもない。ドイツメディアの多くもチームのベースが見えるまでは時間がかかるだろうという見解を見せていたし、今季初の公式戦となったドイツスーパーカップ前に「われわれがバイエルンに挑戦するのにもっと良いタイミングがあるだろう」とトーマス・トゥヘル監督が慎重に話したのも理解できる。

両チームのスタメンから見るチーム状況

 そうした姿勢はスーパーカップのスタメンにも見て取れた。ユーロ(欧州選手権)出場メンバーを多く抱える両チームだが、バイエルンのカルロ・アンチェロッティ監督は「試合までは(合流から)9日間ある。シーズンすべての試合のコンディションを作るには十分ではないが、この試合のためには十分だ」と語り、まだ合流したばかりのトーマス・ミュラーやレバンドフスキ、ダビド・アラバというレギュラーとしての活躍が予想される選手をスタメンに並べた。公式戦である上に、タイトルのかかった試合だ。勝つために最適なやり方を見いだすのはプロチームとしての義務であり、そこがぶれればチームとしての方向性も見失いかねない。

 一方のトゥヘルにしてもそのことを理解していないわけではない。ただ、優先順位のつけ方として、ドルトムントスタイルを現時点でしっかりとピッチで具現化できるかを考慮した。例えば、古巣との対戦で最大の注目を集めていたゲッツェも最後まで出場させなかったが、「出場は最初からプランされていなかった。チームに合流したばかりの選手を出場させるのではなく、4〜5週間しっかりと準備期間でトレーニングをし続けた選手をと考えていた」とあくまでもチーム作りのプロセスを崩さなかった。

 試合を捨てたわけではない。大事な試合”なのに”フルメンバーを組まないではなく、大事な試合”だからこそ”準備期間から集中して自分たちの目指すサッカーに取り組んできたメンバーでこの試合に臨んだことに意味を求めたわけだ。そして、少なからずこの試合からトゥヘルが思い描くサッカーが見えた。

ビルドアップからの展開には変化が

今季のドルトムントはビルドアップからの展開に変化が見られた 【Getty Images】

 今季のドルトムントは基本的なところでは、これまでのやり方を踏襲している。守備では相手がボールを持つと、素早く積極的にプレスを仕掛けていく。バイエルン戦では司令塔シャビ・アロンソへのパスコースを切りながら、前線の香川とピエール・エメリク・オーバメヤンが巧みにスライドして、精度の高いフィードボールを蹴るハビ・マルティネスとフンメルスにスペースを与えないようにアプローチする。そこで相手の攻撃スピードを遅らせ、プレー選択肢を狭めると、次の展開を予測したほかの選手が一気に殺到しボール奪取を狙う。うまく奪うことができたら相手が陣形を取り戻す前に、一気にカウンターを仕掛けるところはこれまでと同様だ。

 マイナーチェンジがほどこされていたのがビルドアップからの展開。これまではサイドに2〜3人がポジションを取り、そこでのコンビネーションで優位に立つことを目指していた。しかし、サイドをいくらきれいに突破しても、それだけではゴール前で守備を固める相手に対しては脅威にならない。そのため、サイドの選手もこれまで以上に積極的に中へとポジションを絞り、そこから裏のスペースに抜け出たり、サイドに流れたり、味方が作ったスペースに入り込む、またはDFの間のスペースでパスを受けるといった変化が必要になってきた。

 こうした傾向はユーロでも見られていたが、ドルトムントでも両サイドの担当を各サイドバックに託し、前線の選手はより中を意識した動きで連動して相手守備の間でボールを受けようとする動きが何度も見られた。とはいえ、流石にまだすべてがスムーズにやり取りできているわけではない。不用意なパスでボールロストし、カウンターで危険な場面を作られるシーンも少なからずあった。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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