大量補強を強いられたドルトムント 香川が担うべきリーダーの役割

中野吉之伴

香川はプレー以外でもチームを導く役割に

香川に求められるのはリーダーとしての新たな役割だ 【Getty Images】

 サイドに起点を置いてボールを回しながら、機を見て相手が守備を固めるセンターでも変化をつけていく。こうしたプレー精度を高めていくうえで、香川は間違いなく非常に重要なプレーヤーである。狭いスペースにタイミングよくボールを呼び込み、鋭いターンで前を向いては、相手が嫌なところに運んで巧みなパス交換からゴール前に顔を出す。あるいは味方が作ったスペースにするすると入り込んでフリーになるのも、もともと得意なプレーだ。香川はドイツカップ1回戦のアイントラハト・トリール戦(3−0)では見事な2ゴールをマークした。

 それ以外にも、攻め急いでしまいそうな場面でボールを落ち着かせたり、こう着状態になると仕掛ける動きを見せて相手を揺さぶろうとしていた。すべてのプレーがうまくいったわけではないし、ミスがなかったわけでもない。だが、アタッキングサードおけるリスクチャレンジのコントロールには香川、あるいはバイエルンから復帰したゲッツェの個の力に頼るところが大きいだろう。

 そうしたピッチ上のかじ取りのほかにも、新生ドルトムントで香川は重要な役割を担うべき存在だ。『ビルト』紙は香川に関して「おそらくトーマス・トゥヘルのもと、リーダー格の選手に属すだろう。これまでやってきた役割ではないが、それが試されるシーズンになる」という書き方をしていたが、年齢、在籍年数、実力から見ても、プレー面だけではなく、立ち振る舞いでもチームを導いていくことが求められている。

 本人にもそうした自覚が芽生え始めていると予感させるシーンがトリール戦で見られた。ハーフタイムを終えてピッチに戻るときに、デンベレを捕まえてアドバイスを送っているシーンがテレビ画面に映されていたのだ。映像からはデンベレが真剣に香川の言葉に耳を傾けている様子が見て取れた。

新戦力が見せるポテンシャルの高さ

注目の新戦力はレンヌから加入したデンベレ。欠点こそあれど、それを補う能力を持ち合わせている 【写真:アフロ】

 新戦力はそのポテンシャルの高さを少なからず披露している。守備ラインではパス能力に長けたバルトラが鋭い縦パスやフィードボールで攻撃の起点となった。スタメンで抜てきされたフェリックス・パスラックはフランク・リベリーを抑え込むだけではなく、快足を生かして右サイドからチャンスメークを見せた。ローデはダイナミックなプレーで中盤を引き締め、シュールレは恩師トゥヘルの下で躍動感を取り戻しつつある。

 そして何よりの注目がレンヌから新加入したデンベレだ。ボールを持つと素早く前を向き、相手が何人いようとあっという間に抜き去る突破力は、挑発に乗ってしまったり、戦術理解のところでは粗さがあるものの、その欠点を凌駕(りょうが)するだけの魅力がある。

 彼ら若手や新加入選手が安定したパフォーマンスを発揮するには、自分の信じるままにプレーしてもいいという後ろ盾が必要だ。それは監督のトゥヘルの仕事でもあるし、チーム内で説得力を持つ主力選手のサポートが欠かせない。香川自身、そうした環境の中で成長し、ブレイクスルーを果たすことができた。

 ライバルと目されるゲッツェと併用されるのか、あるいは一つのポジションを争うのかは分からない。だが、それに引きずられることなく、自分の力を発揮し、若手の力を引き出すという新たな挑戦もうまくいけば、ドルトムントが新たな力を手にするのは確かだ。そうしたプロセスを積み重ねることで、打倒バイエルンという悲願も現実味を帯びてくるのではないだろうか。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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