手ごたえのケンブリッジ 山縣は安堵 男子100予選レース後に見せた表情

平野貴也

桐生は予選敗退も「4年で変われる」

予選敗退となった桐生。「まだまだ」と力不足を強調した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 一方、残念な結果に終わったのが、自己ベストでは3人の中で最速の桐生だった。山縣の1つ前、第7組でボルトと勝負。苦手としているスタートで大きく出遅れることはなかったが、序盤で加速が付かずに苦しんだ。粘って4位に食い込んだが、タイムは10秒23と伸びず、最終組を待たずに敗退が決まった。レース後は報道陣から実際に走った感触や、ベストの走りができなかった要因をさまざまに聞かれたが「思い切りいったので、後悔はない。この言い方が良いか分からないけど、すごく楽しい五輪の100メートルだった。細かいことは、どうでもいい」とレースの細部への言及は避けた。

 課題に関しても「1年間のトータルでの集大成がこの結果だから、まだまだ」と細部に触れることなく、ただ、力不足だけを主張した。6月の日本選手権でもケンブリッジ、山縣の後塵を拝していたが、勢いの差が五輪本番でも出た印象だ。まだ4×100メートルリレーが残っているが、初の五輪で個人レースを終え、悔しさを隠しながら「モスクワ(2013年の世界陸上)では太刀打ちできなかったけど、五輪を終えて、あとほんのちょっとのところで勝負しないといけないというところ。それを4年でどうするか。4年前には、五輪に出ることを目標にするなんて想像もしなかったけど、この五輪に出たことを踏まえて、次の東京五輪までの4年間で人はどれだけでも変われると思うから、変わって、次に行きたい」と話し、次回大会での巻き返しを誓った。

決勝へ進むには9秒台が必須条件

ガトリンが予選1位となる10秒01。決勝進出には9秒台が必須だ 【Getty Images】

 翌14日に行われる準決勝は、3組に分かれて行われ、各組上位2位の6人と、6人を除く全体タイムの上位2人が決勝に進出する。日本勢は、ケンブリッジと山縣が準決勝に残ったが、本気の走りでもないのに1人だけ跳ねるようなストライドで別次元の加速を垣間見せた王者ボルト(予選第7組1位、10秒07)や、第2組で1位になったジャスティン・ガトリン(米国)がゴール前を明確に流しても桐生のベストタイムである10秒01を記録するといった様を見ると、やはり世界のトップクラスとの差は歴然だ。

 しかし、今後に差を縮めていくためにも、まずは1932年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳以来84年ぶりとなる決勝進出を果たし、誰もが全力で走る最高峰で彼らの本当の力を体感したいところだ。ケンブリッジはガトリンと、山縣はボルトとそれぞれ同じ組となった。決勝進出は、おそらく9秒台突入が必然的に条件となる。ケンブリッジは「今の走りでは厳しいけど、手ごたえはある。うまく、ベストな走りをしたい」と言葉を残して、翌日の準決勝に目を向けた。

 9秒台への周囲の期待という呪縛を乗り越え決勝進出の快挙へ。2人のスプリンターが新たな歴史作りに挑む。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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