ダルビッシュ、右肩違和感から復活の裏側 現状に満足せず常に前進する柔軟性

丹羽政善

前に進むより立ち止まることを選択

故障者リスト期間中、ベンチから戦況を見つめるダルビッシュ 【Getty Images】

 その日の夜、前に進むよりも少し立ち止まることになったが、チームと離れてダラスでMRI(磁気共鳴画像法)検査を行っても、明確な原因は分からなかったことにはダルビッシュも首を傾げたのではないか。

 同じ頃マイアミで、ダルビッシュ同様、98マイル前後の真っすぐと、鋭いスライダーで投球を組み立てるホセ・フェルナンデス(マーリンズ)に話を聞いた。

 彼も昨年7月2日、トミー・ジョン手術から復帰したが、7回先発した後、肩の違和感で1カ月以上もマウンドから遠ざかっている。そこだけを切り取れば、ダルビッシュと復帰後の経緯が似ているが、あのときの状況を聞けば、「右肩に違和感を覚えた」と口にしながら、それを端的に感じた右腕の付け根当たりを指差し、「腕に力が入らなくなったんだ」と明かした。

 それはいわゆる“デッドアーム”という症状にも似ているが、あのときも明確な原因が分からなかったそう。しかし、肩を休めて様子を見ていると、やがて何事もなかったかのように回復した。

 こうしたケースはトミー・ジョン手術の後、やはり多かれ少なかれあるようだ。ダルビッシュの張りの正体について意見を求めると、「どうだろう、状況は人によって違う」と言葉を濁したが、「自分の経験をふまえた上で答えるなら、そんなに深刻ではないのでは」と推測した。

自分の頭で考えることこそ大切

 ダルビッシュは結局、登板回避を決めた1週間後には軽いキャッチボールを始めている。

 その間、変えたことが一つあるという。

「18、19、20歳の頃、ずっと右肩が痛かった。でも、(右腕、右肩のトレーニングを)チューブからダンベルに変えたら痛みが消えた。今回もチームと話し合ってチューブを止め、ダンベルにしたら(状態が)良くなった」

 その点はしかし、「(効果は)人それぞれ」とダルビッシュは強調する。答えは一つではなく、彼の場合はダンベルの方が適していたということで、チューブを否定しているわけではない。彼は折りに触れて、有名な人が言っていたからと一方的に飛びつく風潮に苦言を呈すが、「人それぞれ」と断ったのはそういう意味であり、それよりもむしろ、自分に必要なことを自分の頭で考えることこそ大切と考えている。

 今回に関しては、昔試した方法が効果的だったわけだが、一方で彼は、新しい知識を増やすことにどん欲だ。トレーニング理論は常に新しくなっており、一つに固執していると成長の妨げになりうる。先日も、球速を上げることに特化し、さらに故障しない投げ方を追求する「ドライブライン」という施設のトレーニング用のボールを試していた。

 ダルビッシュレベルになれば、ある程度、自分に適したトレーニング方法なども確立しているが、それでも試してみようと、今なお新しい可能性を模索するその姿勢には、現状に満足せず、さらに一歩、まだまだ、という彼の柔軟性がにじむ。

 トミー・ジョン手術のときもそうだったが、リハビリ期間をどう生かすか。今回も新旧のトレーニングをバランスよく取り入れ、復帰につなげた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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