メッシの代表引退発言とピッチ外の混乱 理由はコパ敗戦による傷心だけではない

けが人の影響、イグアインの不発

決定機をことごとく外したイグアイン(9)。セリエA得点王の不発はプレッシャーが影響しているのか 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 またアルゼンチンは14年W杯を含めた3つの大会において、多くの選手が疲労を溜め込み、複数のけが人を抱えた状態で決勝を戦わなければならなかった。

 特に今大会は、中盤から前線にかけては戦力的にぎりぎりで、選手交代の選択肢はほとんどなかった。エセキエル・ラベッシとアウグスト・フェルナンデスは準決勝で負傷離脱。ニコラス・ガイタンもけがを抱え、コンディション不良のハビエル・パストーレはそれまで1分もプレーしていなかったため、マルティーノは4−3−3の基本システムを維持すべく、やはりけが明けのアンヘル・ディ・マリアを先発起用した。だが万全の状態になかったディ・マリアは、昨年の決勝と同じく無念の途中交代を強いられ(後半12分)、マルティーノは彼の交代とともにシステムの変更を余儀なくされた。

 こうしてメッシはまたしても最後の最後で、それまでの試合で積み重ねてきたものとは程遠い(もちろんバルセロナのそれとも全く異なる)システムで戦うことを強いられたのである。メッシがボールを求めて自陣まで下がり、そこから長い距離を駆け上がって相手ゴールを目指さなければならなかったのは、チームが正しく機能していない証拠だった。

 過去2年に続いて今回の決勝でも直面した問題としては、決定機をことごとく外したゴンサロ・イグアインの不発も挙げられる。彼がセリエAのシーズン最多得点記録を更新した直後であることを考えれば、この問題を解決するには心理学的なアプローチが必要になることは明らかだ。選手たちが背負っているプレッシャーはあまりにも大きすぎるのである。

メッシは代表に戻ってくるか

決勝で敗れた直後から、国民の大多数がメッシの代表復帰を求め始めた 【写真:ロイター/アフロ】

 メッシが代表引退を口にした背景に、こうした複数の問題があったことは間違いない。とはいえ、彼がこのまま二度と代表でプレーすることがないとは考え難い。しばし代表とは距離を置き、バルセロナで静かに傷を癒すために、来るW杯予選の数試合を欠場するかもしれない。だが、再び意欲を取り戻し、戻って来てくれるものと考えたい。

 今回の代表引退発言は、少なくとも1つ良いニュースをもたらした。以前は結果が出せないたびに、メッシの代表軽視や愛国心の欠如を批判してきた国民の大多数が、決勝で敗れた直後から彼の代表復帰を求め始めたことだ。

 メッシは偉大なアスリートであり、優れたプレーヤーである。それでも持てるタレントを最大限に発揮するためには、他のあらゆる選手と同様に、チームのサポートを受けられる戦術やシステムを必要としている。

 なぜバルセロナではあらゆるタイトルを獲り尽くし、アルゼンチン代表ではいまだに何も勝ち取ることができていないのか。アルゼンチンの人々は、ようやくその答えを理解し始めたのである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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