植田は「世界を感じさせてくれる選手」 秋田豊が語るセンターバックの潮流

田中滋

現代サッカーの傾向として今はCBの身長が低い

コパ・アメリカに出場していた米国代表のブルックス(写真)はCBとして「理想的なプレーをしていた」と秋田氏 【Getty Images】

 FKだって、たとえば中村俊輔は何度も何度も蹴って、感覚的なものを研ぎ澄ませているはず。そういう感覚的なところはヘディングも一緒。遠くに飛ばすためにちょっとかぶり気味に跳んで、頭の上に当ててボールを浮かすとか、近くに味方が見えたなら当たる瞬間にあごを引くことでボールを下に落とすとか、何回もやることで感覚的なものがつかめるようになってくる。足で蹴ることはみんなやりたがるけれど、ヘディングは痛いからやりたがらない。でも、そこを突き詰めないとヘディングだってうまくならない。

 コパ・アメリカを見ていたら、米国の(ジョン・)ブルックスという選手が本当に理想的なプレーをしていた。クロスに対してのヘディングの飛距離、角度。サイドからのクロスに戻りながらヘディングするときでも、ペナルティーエリアの外まで弾き返す。アーリークロスが来てクリアするときも、足首を固めてしっかり面をつくって思いきり振らない。インパクトだけでボールは飛ぶし、ハーフウェーライン付近まで飛ばしていた。エクアドル戦では、3対1の速攻をつくられたとき、わざと左を空けるポジショニングで下がりながら、そっちにボールを出させて最後はシュートブロックで止めていた。190センチくらいある選手なんだけど(実際は193センチ)、自分が指導者なら「これが理想的なクリアだよ」と示すくらい素晴らしいプレーばかりだった。

 現代サッカーの傾向として、コパ・アメリカを見ても今はCBの身長が低い。1対1が重視されていることもあってか、足まわりが強く、ステップバックが速くて、相手からボールを奪うのもうまい。ビルドアップもできて、後ろからパスをしっかりつなぐことができる選手が多かった。その意味で言うと、今回OAで塩谷が選ばれているけれど、彼もそういうタイプの選手だと思う。前線での得点能力も高いし足元(の技術)もある。本当にバランスの取れた選手だと思うし、こういうタイプの選手が世界の主流になっている。植田がそれほどうまくビルドアップができるタイプではないことを考えると、今回、塩谷が選ばれたのもとても納得がいく。

植田はドイツやスペインのクラブに行ってほしい

植田が海外のクラブでプレーする日は来るか 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 植田に関しては、いつか海外に行ってほしい。鹿島のOBとしては寂しいけれど、行くんだったらポルトガルがいい。ポルトとかベンフィカとか、組織的なこともやるところで、なおかつチャンピオンズリーグに出ながら、また次のステップを狙って、ドイツやスペインのクラブに行ってほしい。

 植田はとにかくけがをしない。それは彼がテコンドーをやってきたことも関係していると思う。強い体幹とメンタリティーを持っているからけがもしない。やはり、気を張っていないと、どうしてもけがをしやすくなる。ただ、植田はよく眉やおでこを切っている。彼が自分の最高打点をつかめるようになれば、それもなくなると思う。次元が違うところでヘディングができるんだから、当たりようがない。本来なら、相手の頭頂部しか見えないはずなんだ。

 もちろん、相手の肘が当たったり、小さい選手の頭が当たって口が切れることはあると思う。でも、しっかりと良いフォームでジャンプできれば、空中で相手を押し出すことができるから、当たるはずがない。それができるようになったら、植田はもっと楽しみな選手になると思う。

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「日本にはセンターバックがいない」

そう言われてしまう現状は悔しくてならない。中盤の選手でなくとも、海外で活躍できる素養を持った選手はセンターバックにもいるはずだ。だから今回、私が経験してきたことはすべてさらけ出し、丸裸になったつもりだ。

 ヘディングの技術はもちろん、1対1の対応、守備システム、ラインコントロールまで、かなり深いところまで解説している。プレーヤーだけでなく、サッカー観戦を楽しみとする方にも、センターバックというポジションの奥深さを理解していただけたら嬉しい。(「はじめに」より)

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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