歓喜の優勝から半年、琴奨菊の心境 自らの相撲道を貫き32歳の綱取りへ

戸塚啓

「自分で良かったと思えるかが一番大事」

しっかりと当たって、相手に圧力をかけて攻めていく相撲が琴奨菊(手前)の持ち味だ 【写真は共同】

 日本人力士として、大関として、日本人が望む相撲道を真っすぐに歩んでいくべきなのか。それとも、徹底的なまでに勝負に徹して、勝ち名乗りを受けるべきなのか。琴奨菊はどちらも否定しない。「最終的に勝たないと意味がないし、勝った者が強いのです」とも話す。
 
 その上で、濁りのない強い笑みを浮かべた。

「私がやっていることは、すべて私の相撲人生です。勝たないと自分の名前が残っていかないし、面白くもない。けれど、取組が終わったときに、自分で良かったと思えるかどうかが、一番大事なのではないですかね。私が納得できるなら、私を応援してくれる人たちも同じ気持ちになってくれるはずです。これまで私が目指してきた方向性というものは、そういう意味で間違っていないと思うのです」

理想とする先代師匠と同じ年齢で

 名古屋を舞台とする7月場所が、10日に初日を迎える。琴奨菊の胸に宿るのは密やかな、それでいて確かな野心である。

「15日間は長いですから、最後までモチベーションを保っていけるように。自分と向き合って、いろいろなことを事前に想定して、何か起きても慌てない。身体のケアを怠らない。そうすれば、おのずと結果は出るでしょう。勝つための準備をしっかりやって、自信を持って土俵へ上がれているようにします」

 7月場所を終えると、21カ所、23日間に及ぶ夏巡業がすぐ始まる。8月12・13日の両日には、東日本大震災の復興支援を兼ねた仙台場所が開催される。

「大変な時期を乗り越えて、こうして巡業ができることをとても嬉しく思いますし、震災後には私たちも復興支援へ行きましたが、行く先々で『頑張ってください』、『応援しています』と声をかけていただきました。支援に出かけたはずが、逆に励まされました。今度は私たちが、勇気を届けたいと思います」

 夏巡業後は再び、心と身体のベクトルを本場所へ向ける。琴奨菊にとっての2016年は、重要な意味を持っているのだ。

「大関しか横綱になることはできないですし、それに向けて私はやっています。いまやっていることを頑張ってやっていけたら、必ずチャンスは来ると思っています」

 先代の佐渡ヶ嶽親方・琴櫻は32歳で第53代横綱に昇進した。1984年1月生まれの大関は、今年の11月場所まで32歳で土俵に立つ。

 理想の力士像と話す先代に肩を並べることを、琴奨菊はまだ諦めてはいない。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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