幕を閉じたスペイン代表「黄金の8年間」
軽快なパスサッカーを追い求めた代償

スタイルを変えなかったスペイン

グループステージ第2戦のトルコ戦で大勝した時は楽観論が盛り上がったが……
グループステージ第2戦のトルコ戦で大勝した時は楽観論が盛り上がったが……【写真:ロイター/アフロ】

 これは今大会に限らず、ユーロ2008以降のすべてのチームがそうだったのだが、それでスペインはユーロ2008、W杯南アフリカ大会、ユーロ2012では優勝できていた。2年前のW杯ブラジル大会ではグループステージ敗退の屈辱を味わっていたが、「あれはアクシデント」と信じて今大会もスタイルを変えなかった。グループステージ第2戦のトルコ戦で大勝(3−0)した時は「まだまだいける」と楽観論が盛り上がったが、クロアチアに敗れ、イタリア戦に惨敗したことで現実に引き戻された。


 3バックのチームに苦労することは、ブラジルでの経験(オランダ戦/1−5、チリ戦/0−2)で分かっていたが、イタリアの3バックを前にしてデル・ボスケ監督には、いつものサッカーをする以外の策がなかった。引いて来るだろうという予想に反してイタリアが前からプレスを掛けてくると、面食らって足が縮み、相手にダメージを与えるパスを出そうとする者も、ボールをもらいにいこうとする者もいなくなった。


 イタリアの5人の中盤に対して4人のMF(セルヒオ・ブスケツ、セスク、イニエスタ、シルバ)で数的不利になっていたが、5人目のMFとなるはずのノリートもしくはサイドバックの1人は、カウンターを恐れて中途半端なポジショニングとなり、パス回しに参加できなかった。

モラタというCFの発見

モラタ(右)という念願のCFが見つかったことなど、いくつかポジティブなことも
モラタ(右)という念願のCFが見つかったことなど、いくつかポジティブなことも【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 7月2日に行われた準々決勝のドイツ対イタリアをご覧になった方は分かるだろうが、ドイツのヨアヒム・レーブ監督は通常の4バックを3バックに変更し、ボールと主導権をイタリアに渡さなかった。これは決して即興ではなく、ドイツはW杯ブラジル大会でも3バックを試していた。レーブにこういう戦術的な引き出しがあったのは打倒スペインに有効だと知っていたからであり、対照的にデル・ボスケが無策だったのは、軽快なパスサッカー一本で欧州を2度制覇し、世界一に上り詰めたことの代償だと言える。


 スペインに戦術的な転換が求められている今、デル・ボスケが退任するのは必然だろう。ルイス・アラゴネス前監督が発見し、現指揮官が定着させた軽快なパスサッカーは、いつの間にか時代に取り残されていた。後任にはセビージャ、ビルバオ、マジョルカなどを率いたホアキン・カパロスがうわさされている。彼のロングボールを多用するスタイルが代表のスタイルと融合し、どう化学変化を起こすのかは、まったく未知数で楽しみでもある。チーム内のゴタゴタの方は定評ある強力なキャラクターによって収まるに違いない。


 期待外れだっただけにネガティブなことが多くなってしまったが、いくつかポジティブなこともあった。今大会3ゴールを挙げたアルバロ・モラタという念願のセンターフォワード(CF)が見つかったことだ。ユーロ2012決勝はセスクの偽CFで戦ったことは記憶に新しい。ダビド・ビジャ、フェルナンド・トーレスの後任のCF候補として、アルバロ・ネグレド、ロベルト・ソルダード、パコ・アルカセル、ジエゴ・コスタらが試されてきたが、誰もレギュラーの座をつかむことはできなかった。


 高さとスピードがあり、コンビネーションプレーを苦手としないモラタは、今のスペインには理想的なCFだと言える。もっとも、戦術的な変化が求められている新チームには、ジエゴ・コスタ、ネグレドなど前線に張ってポストプレーをするようなタイプのCFを組み込んでいく必要があるのだろうが……。


 軋轢(あつれき)を生んだが、カシージャスからデ・ヘアへのバトンタッチも成功だった。イタリア戦で終盤まで1点差を維持できたのは、彼の数々のセーブのおかげである。大会後、カシージャスは代表からの引退を発表した。デル・ボスケが去り、カシージャスが去り、スペイン代表の「黄金の8年間」が幕を閉じたのだった。

木村浩嗣

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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