またもチリに敗れたアルゼンチン タイトル獲得のために必要な方向修正

あらためて示したチリの隆盛

明確なプレー哲学と有能な選手がそろったチリ。今大会であらためてその隆盛を示した 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 過去2年の決勝と同じく、今回のファイナルでもアルゼンチンは準決勝までとは異なるチームになっていた。エセキエル・ラベッシは米国戦で左肘を骨折。ハビエル・パストーレに至ってはけがのため全くプレーできぬまま大会を終えた。さらには、アンヘル・ディ・マリアもけがを抱えてのプレーを強いられたため、ヘラルド・マルティーノ監督は準決勝までの成功を支えてきた「4−3−3」のシステムを「4−3−1−2」に変更して決勝に臨んだ。実際は、マルコス・ロホの退場によりメッシとエベル・バネガを2列目に並べる「3−3−2−1」となり、1トップにはゴンサロ・イグアインが先発、途中交代でセルヒオ・アグエロが起用された。

 しかし、アルゼンチンはこの日も以前と同じシナリオをなぞることになった。前半28分にはマルセロ・ディアスの退場により数的優位を手にし、延長前半にはアレクシス・サンチェスが負傷交代を強いられるなど有利な状況が重なったにもかかわらず、またしてもイグアインがクラウディオ・ブラボを相手に決定機を外し続けたのだ。

 対するチリは、いつも通りにプレーしていた。実力が拮抗(きっこう)したチーム同士のファイナルにて、チリはボールポゼッションとできる限り高い位置から仕掛けるプレッシングを全うしていた。それは何年も前にマルセロ・ビエルサが植え付け、ホルヘ・サンパオリの手で洗練され、フアン・アントニオ・ピッツィ現監督に引き継がれたチリのプレースタイルそのものだった。今大会の優勝は、明確なプレー哲学と有能な選手が多数そろった黄金世代を擁するチリの隆盛をあらためて証明するものだった。

プレー内容だけにとどまらない敗因

アルゼンチン国内は協会の派閥闘争が続くなど、混沌とした状況にある 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 対照的に、アルゼンチンはこの敗戦により混沌(こんとん)とした状況に陥ることになりそうだ。メッシは決勝でのPK失敗を最後に代表引退を表明し、マルティーノはパラグアイを率いた11年大会から3大会連続で決勝まで勝ち進んだ末に優勝を逃した。また、フリオ・グロンドーナ元会長が亡くなって以降、混乱が続くアルゼンチンサッカー協会(AFA)はFIFA(国際サッカー連盟)の管理下に置かれることになり、決勝前には複数の選手たちから不満の声が聞かれた。

 3大会連続で決勝にて敗れることなど、ただの偶然であるはずがない。そして、その原因はチームのプレー内容だけにとどまらない。

 アルゼンチンでは新シーズンの開幕まで2カ月を切った今でも、まだ来季の国内リーグがどのような形で行われるのかさえ決まっていない。派閥闘争が続く中、誰がAFAの会長になるのかも未定な状況だ。運営を代行するFIFAは、代表チームがタイトルを獲得するためには何が足りないのかを真剣に考える必要がある。

 問題はメッシやアグエロ、イグアインらにあるわけではない。彼らだけでなく、代表に選ばれる選手たちはみな所属クラブではスター選手として活躍しているのだ。隣国チリがフットボール史上最高に幸福な時を謳歌(おうか)している傍らで、アルゼンチンは今こそ国を上げて内省、熟慮し、長年手付かずのままでいた方向性の誤りを正すべき時を迎えている。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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