“惨めな敗退”で非難を浴びるブラジル 機能不全の協会、選手を萎縮させる指揮官

沢田啓明

最大の責任は機能不全のブラジルサッカー連盟

自国開催の14年W杯準決勝での大敗を含めて、この10年、ブラジル代表は悲惨な成績が連綿と続いている 【写真:アフロ】

 ただし、ブラジルにとっての問題はそこではない。ペルーは6月2日付のFIFAランキング48位で(ブラジルは7位)、2018年ワールドカップ(W杯)南米予選でも第6節終了時点で参加10カ国中8位。ブラジルは、南米予選第4節にホームで対戦し、3−0と完勝している。負けるのはおろか、引き分けていい相手ではない。エクアドル戦に続いて、なぜ点が取れなかったのか――。この試合の内容なら、南米最強のアルゼンチンには大敗を喫していたはずだ。

 ブラジルは、06年W杯でベスト8に終わり、07年のコパ・アメリカでこそ優勝したものの、10年W杯でベスト8、11年コパ・アメリカでもベスト8、自国開催となった14年のW杯準決勝では、ドイツに1−7と大敗を喫してのベスト4、そして今大会のGS敗退と、この10年というもの、悲惨な成績が連綿と続いている。

 どうしてこのような状況に陥ってしまったのか。

 結論から言えば、最大の責任は汚職まみれで久しく機能不全に陥っているブラジルサッカー連盟(CBF)にある。ブラジルサッカーの最大の強みは、日本の約23倍という広大な国土に散らばる数百ものプロクラブの下部組織における優れた選手育成にあった。しかし、1990年代以降、多くのクラブの財政状況が悪化する一方、CBF首脳が私腹を肥やすことにばかり熱心で、クラブの財政再建などの課題を放置し続けてきた。このことが、ブラジルサッカーの長期低落を招いた。

 また、近年のブラジル代表に関して言えば、12年末、当時休養中だった名将ペップ・グアルディオラを監督に招くチャンスがありながら(彼の実弟が、ブラジルのサッカー関係者に「招へいを受ければ、受諾する用意がある」と伝えたとされる)、CBFがブラジル人監督にこだわってルイス・フェリペ・スコラーリを据えたのが裏目に出た。さらに、14年W杯後、クラブで監督としての実績がほとんどないドゥンガを06年に続いて再び招へいしたのも不可解だった。

より重要なのは8月末に再開されるW杯南米予選

解任が予想されているドゥンガ。後任はチッチ(左)以外に適任者は見当たらない 【Getty Images】

 以来、2年近くの時間が過ぎたが、ドゥンガはチームの骨格すら作れていない。センターバックのチアゴ・シウバら主力であっても、ミスをすると控えではなく一気に招集外にするという冷酷な手法で選手を使い捨てており、それで選手が萎縮し、ペルー戦のようにちょっとしたアクシデントでチームが一気に崩壊してしまう。

 現在、18年W杯南米予選で6位。南米に与えられたW杯出場枠は4.5だから、このままだと大陸間プレーオフにすら出場できない。このように内容も結果も伴わない状況では、監督を交代させるしかあるまい。ブラジル人監督の中で最も有能なのは、コリンチャンスを率いて12年にクラブW杯で優勝し、昨年、3度目となる指揮官となり、チームを国内王者に導いたチッチ。当面、彼以上の適任者は見当たらない。

 個人的には、今のブラジルがコパ・アメリカで優勝するとは思っていなかった(大会前の予想は、準々決勝敗退)。より重要なのは9月初めに再開されるW杯南米予選であり、ブラジルサッカーの将来にとっては、今大会で中途半端な成績を収めてドゥンガの首がつながることの方が良くないと考えていた。

 この原稿を書いている13日現在、国内メディアの多くはドゥンガ解任を予想している。過去、ドゥンガには何度もインタビューさせてもらっており、彼の人間性には好感を抱いている。しかし、ここは自分自身の将来のためにも、いったん身を引いて捲土(けんど)重来を期するべきだろう(彼の性格からして、そうする可能性が高くないのは分かっているのだが)。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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