”サッカーどころではない”ブラジルの今 けが人続出の緊急事態も、国民は無関心
南米サッカーの激しいライバル心
南米はわずか10カ国にもかかわらず、FIFAワールドカップ(W杯)5回優勝のブラジル、2回優勝のアルゼンチンにウルグアイと強豪国がひしめいている。さらに記念すべき第1回W杯がウルグアイで開催されたこともあり、サッカーの歴史において重要な役割を担った舞台である。
欧州と南米の各国が世界ナンバー1を決めようとW杯が始まったのが1930年だったが、その14年前に南米ではすでに大陸王者を決める大会が開催されていたのだ。16年、アルゼンチンの建国100周年を記念して、アルゼンチン(開催国)、ブラジル、ウルグアイ、チリと4カ国が集まり第1回南米選手権が行われ、当時強大な力を誇ったウルグアイが王座に就いた。この大会の成功により、同年7月に4カ国で南米サッカー連盟(Confederacion Sudamericana de Futbol)通称、「Conmebol」(コンメボル)が創設されたという経緯がある。
南米各国の激しいライバル心は、この100年の歴史に起因する。14年のW杯ブラジル大会の時、同じ大陸ということで、南米のサポーターが大挙してブラジルに押し寄せたが、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、チリの4カ国間のライバル心は非常に強く、互いに野次(やじ)を飛ばす時のまとまりは半端なものではない。相手が南米のライバルとなると、親善試合でもたとえ消化試合だとしても、チームの現状よりも歴史的対戦成績の方に重きを置き、絶対に負けたくないため、チーム全体、サポーターも真剣に勝負を挑む。本気度は、それ以外の国との試合とは全く違ったものになる。そんなライバル心こそが、南米サッカーのレベルを高く保った一因であることは違いない。
16カ国が参加する創立100周年の記念大会
そして、今年は創設100周年記念大会ということで本来の南米サッカー連盟加盟10カ国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、ベネズエラ)に北中米サッカー連盟加盟の6カ国(米国、メキシコ、パナマ、コスタリカ、ジャマイカ、ハイチ)を招待し、計16カ国が現地時間6月3日から26日まで、米国の10カ所を舞台に”コパ・アメリカ・センテナーリオ”として戦いを繰り広げることになった。
大会のレギュレーションは、16カ国が4グループ各4チームに分かれグループステージを戦い、各グループの上位2チームがノックアウト式の決勝トーナメントに進むというものだ。
解消されない国内の政治的混乱
しかし、本当のところ、ブラジル国内は今“サッカーどころではない”のだ。汚職まみれの政府、経済は悪化の一途をたどり、これに国民の不満が爆発し、各地で政府と大統領への抗議デモが行われた。ついに与党が分裂し、大統領の弾劾裁判が始まり、5月にジルマ・ルセフ大統領の罷免が国会で最終的に議決され職務停止になった。現在は、副大統領が大統領代理として就任している。つまり、大統領不在でリオデジャネイロ五輪を迎えるということだ。
それでも、ルセフ大統領の罷免により国民の不満爆発は落ち着きを見せている。もちろん、政治的混迷が解消されたわけではなく、ミシェル・テーメル副大統領も限りなくグレーな人物なので、やれやれというところにはほど遠い。