”サッカーどころではない”ブラジルの今 けが人続出の緊急事態も、国民は無関心

大野美夏

ネイマール抜きで大会を戦うセレソン

ドゥンガは8月に控える五輪チームの監督も兼任。コパ・アメリカ・センテナーリオ、そして五輪で結果を残すことができるか 【写真:ロイター/アフロ】

 ドゥンガ率いるセレソンは自国でのW杯以後、さまざまな選手を試してはいるが、現在もリノベーションの最中である。ドゥンガは8月に控える五輪チームの監督も兼任するため、コパ・アメリカ・センテナーリオはU−23の選手たちに経験をつけさせるために混合チームを結成した。セレソンの主砲ネイマールは、所属するバルセロナから五輪かコパ・アメリカかどちらか1つの参加しか認めないとされ、ドゥンガは悲願の金メダル獲得を目指し、ネイマールを五輪に起用することを選んだ。

 コパ・アメリカ・センテナーリオに臨む、ブラジル代表のメンバーは以下のとおり。

GK:
アリソン(インテルナシオナル) 
ジエゴ・アウベス(バレンシア)
マルセロ・グローエ(グレミオ)

DF:
ダニエウ・アウベス(バルセロナ)
ファビーニョ(モナコ)※
フィリペ・ルイス(アトレティコ・マドリー)
ドウグラス・サントス(アトレチコ・ミネイロ)※
ミランダ(インテル)
ジウ(山東魯能泰山)
マルキーニョス(パリ・サンジェルマン)※
ロドリゴ・カイオ(サンパウロ)※

MF:
エリアス (コリンチャンス)
カゼミーロ(レアル・マドリー)
ルーカス・リマ(サントス)
レナト・アウグスト(北京国安)
フィリペ・コウチーニョ(リバプール)
ルーカス・モウラ(パリ・サンジェルマン)
ウィリアン(チェルシー)
ウォレス(グレミオ)

FW:
パウロ・エンリケ・ガンソ(サンパウロ)
フッキ (ゼニト)
ジョナス(ベンフィカ)
ガブリエウ(サントス)※

※はU−23代表選手

負傷者が続出する緊急事態に……

カカー(右)を含めた5人がけがで代表を離脱するなど、けが人の続出は緊急事態だ 【Getty Images】

 大会開始の2日前にドウグラス・コスタに代わって招集されたカカーまでがけがで戦線離脱。実に5名が負傷するという事態にドゥンガ監督は頭が痛かった。特に、ドウグラス・コスタがメンバーを外れることになった時、ドゥンガはU−23のガブリエウ・ジェズス(パルメイラス)を招集する予定だったが、プレ招集メンバー40名の1人に入っていたにもかかわらず、ガブリエウが米国に入国するための適切なビザを取得していないということが判明し断念した。

 ドゥンガはガブリエウのプロ意識のなさを非難し、かなりいら立っていたようだが、そもそも代表チームを海外に遠征させる際の書類やその他手続きの責任者はCBF(ブラジルサッカー連盟)である。CBFと本人、クラブ、代理人との連携体制が取れていなかった組織力の脆弱(ぜいじゃく)さが今回の書類不備につながったのである。

 CBFは昨年、前会長のジョゼ・マリア・マリンがFIFA(国際サッカー連盟)の要人としてFBIからサッカービジネスにまつわる汚職事件の容疑者として収監された。それからというもの、現会長のマルコ・ポーロ・デル・ニーロも自分に容疑がかかることを恐れ、海外に行くことはせず、病気を理由に職務から離れたり戻ったりを繰り返している。当然、このコパ・アメリカ・センテナーリオには行く予定はない。

 こんな状態で、国民からの支持を受けるわけがない。5月29日にコパ・アメリカ・センテナーリオ前最後のテストマッチであるパナマ戦が行われ、ブラジルがジョナスとガブリエウのゴールで2−0で勝利した。ドゥンガは試合後に「基本は4−4−2で、1トップ、2トップと試合の状況や相手に合わせて切り替えることができる。ガブリエウはスピードとゴール感覚に優れ、いろいろな使い方ができる優秀な選手だ」と語り、手応えを感じていた。しかし、ちまたでは国民の関心度はかなり低く、『試合があったことも知らなかった。まあ、誰も気にしていないけれど』などとネットに書かれている始末だ。

 サンパウロ州選手権2016で優勝を果たしたサントスのルーカス・リマとガビゴウ(ガブリエウ・ゴール)と呼ばれるガブリエウのコンビネーションは期待できる。これに加え、ネイマールなしでセレソンがどう戦うかのテストとして、できることなら次世代スター候補のダブル・ガブリエウの2トップが見たかったが、ドゥンガはカカーの代わりに、急きょ米国のビザを取得したガブリエウ・ジェズスを呼ぶことはせず、復調著しいパウロ・エンリケ・ガンソを招集した。手堅い作戦が吉と出るか、凶と出るか。

 そして、大会直前までごたごたは続いている。ブラジルが練習するはずだったUCLAで銃による殺人事件が起こり、練習場が急きょ変更になったり、さらには6人目のメンバー交代が発表された。ルイス・グスタボが個人的事情により欠場を申し出て、同じくボランチのウォレス(グレミオ)が招集されたのだ。五輪で金メダルを取るまでの長い道のりが始まる。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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