ペップがバイエルンにもたらしたもの 最高の勝利だけは手にできなかったが――
ブンデスリーガのプレー原理を変えた
ブンデスリーガのプレー原理を変えたとまで評されるペップ 【写真:ロイター/アフロ】
「グアルディオラのプレーのアイデアが、影響を及ぼしてきたんだ。バイエルン相手にして戦うか、というのがその好例だね」
3位以下のチームも、ゴール前にバリケードのようにブロックを築くことはほとんどなかった。グアルディオラが他の監督にインスピレーションを与えた結果だった。カップ戦の決勝で敗れたライバルのドルトムントを率いたトーマス・トゥヘルでさえ、「グアルディオラのファンとして知られているし、ペップの戦術的アイデアに基づいたプレー原理をドルトムントに用いている」とケニヒは話す。
さらには、選手個々も伸ばしている。「ほとんどの選手が、少なくとも1つは新しいポジションでの指導を受けていた」(ケニヒ)が、その一例が本来MFのジョシュア・キミヒのセンターバックとしての起用だろう。また、プレーの組み立てにあたり、たった2人のDFしか配置しなかった超攻撃的なフォーメーション自体が、一番の好例であると言えるかもしれない。やはり、CLを手にしなかったことだけでグアルディオラの3年間を測るのは間違っている。
最高の勝利だけは手にすることなく、グアルディオラはバイエルンを後にする。クラブのメンバー、ファンといったバイエルンのファミリーとともに、市庁舎のバルコニーから「ミア・ザン・ミア(これがオレたちだ)」とカップ戦制覇の喜びを叫び、パーティーを楽しむのが、最後の行事となった。
最後の5カ月間は楽ではなかった、とグアルディオラは振り返った。バイエルンを離れてイングランドへ上陸、プレミアリーグでマンチェスター・シティを率いると発表してからの時間のことである。
「彼らが連絡してきてくれて、うれしかった。バイエルンでのこの3年間は、私にとって素晴らしいものだった。選手たちのことを恋しく思うだろうね。ブンデスリーガでの時間を満喫した」
45歳の指揮官は、そう語った。グアルディオラがした仕事――3年間では“時代”と呼ぶことはできないだろう――は結局、バイエルンによって評価されるのであり、未来こそが答えを導き出すことになる。
アンチェロッティに求められるCL制覇
クラブがアンチェロッティに求めるものは、CL制覇に他ならない 【写真:ロイター/アフロ】
「レベルを保たねばならないし、可能ならば力をさらに伸ばしていかなければいけない。もちろん、CL制覇は簡単には成し遂げられないだろう。アンチェロッティはグアルディオラのようなはっきりした哲学を備えた監督ではなく、むしろ自分を周りに合わせるカメレオン的な指導をすると考えられるだろう」
シュミットは、「期待」については話したくないというのが本音だ。2人の監督を比較するのは「基本的に間違ったアプローチ」だと考えているからだ。クライン記者は、現実的な見方をする。「アンチェロッティは最初のシーズンは自分の思いは温めて、チームにはペップのサッカーを継続させるのではないか。それが成功の方程式だからね」。
つまり、ペップ・グアルディオラの魂は、ブンデスリーガの未来にも生き続けるのだ。「特に、新しい世代の若い監督たちの中に、ペップが導入したものは残り続けるだろう」とシュミットは予測する。加えて、グアルディオラがバイエルンにもたらした7つのタイトルは、国際的なブランド力の向上にもつながった。監督のみならず選手たちも引きつけ、それがクラブの新たなプレーアイデアにもつながった。アンチェロッティが引き継ぐチームは、来季のCLでの争いに完璧に適応できるチームである。
遅かれ早かれ、2人の指揮官はミュンヘンで顔を合わせることになるのではないだろうか。もしもCLでシティと対戦したならば、バイエルンのファンは拍手でグアルディオラを迎えることだろう。それだけの仕事を、彼は果たしてきた。決して、ベルリンの夜の涙が、感動的かつ感傷的なものだからではない。
(翻訳:杉山孝)