横浜F・マリノスが秘めるポテンシャル フロント戦略でライト層をスタジアムへ

木崎伸也

選手提案の大型プロジェクトが始動

中町選手(写真)の提案から、大型プロジェクトが計画された 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 そして体験型の企画として満を持して6月11日の川崎戦で開催するのが、「YOKOHAMAを胸に。トリコロールを絆に。」と題打ったレプリカユニホーム付きのチケット販売だ。

 普段は胸にスポンサー名の「NISSAN」が入っているが、今回は都市名の「YOKOHAMA」が入った特別バージョンになる。限定4万枚で、通常のチケット代金に600円をプラスすると、レプリカユニホームを手にできる(年間チケット会員ホルダーは500円で購入可)。ライト層を含めてみんなで同じユニホームを着れば、いつも以上に特別な空間になるだろう。

 このプロジェクトが計画されたのは、約3年前に選手から提案されたことがきっかけだった。永島本部長はこう振り返る。

「スカパー!に『トリコロールパラダイス』というクラブ公式番組があるのですが、12年にアビスパ福岡から加入した中町公祐選手が『プロ野球の福岡ソフトバンクホークスは試合でユニホームを配っている。それをうちでもできませんか?』と番組内で提案したんですね。もともと事業部としても考えていた案だったので、本格的に試算を始めました」

プロ野球の事例をJリーグ仕様に

事業統括本部の永島誠本部長は、「横浜らしい新しいことに取り組んでいきたいと」と語った 【木崎伸也】

 実行するうえで壁となるのは、やはりコストだ。用意するレプリカユニホームの枚数が多いほど1枚あたりの制作費は下がるが、売れ残るリスクが大きくなる。同時に、かかるコストを何かしらの収益によって回収できる見込みがなければ、会社からゴーサインは出ない。

 永島本部長はプロ野球の事例を参考にしながら、Jリーグにふさわしいモデルを考えた。

「野球の場合、ユニホームに限定のスポンサーをつけたり、例えば何もしなければ1万5000人のカードに、ユニ付きを仕掛けることで2万5000人来てもらったりすることで経費をカバーしていました。私たちの場合、そこにプラスしてレプリカユニホームを手にしてもらうことで、もう1回来てもらえると考えた。そこで川崎戦とは別に、8月27日の鹿島アントラーズ戦で再び選手がこのスペシャルユニホームを着ることにしました。この日はガールズフェスをやるんですね。きっと川崎戦でレプリカユニホームを手にした女性ファンが、もう1回来てくれるはず。2試合トータルで、経費をカバーできると考えています」

 自治体や地元企業からも賛同を得られ、試合の約1週間前から区役所、鉄道、コンビニ等で職員がレプリカユニホームを着ながら働く予定だ。街を巻き込んだプロモーションになりそうだ。

 川崎の話を振ると、永島本部長は少しだけライバル心をにじませた。

「おそらく試合イベントの数、規模でいうと、われわれの方も遜色はないと思います。フロンターレさんの場合は都会にありながら、かなり地元意識を呼び起こす切り口でイベントを仕掛けられている印象があります。多分、同じようなことを横浜でやってもウケないと思うので、われわれはわれわれのやり方で、横浜らしい新しいことに取り組んでいきたいです」

 13年11月、横浜FMはアルビレックス新潟戦で6万2632人を集め、浦和対ガンバ大阪が持っていた記録を抜いてJリーグの最多入場者数を更新した。スタジアムに陸上トラックがあるのはハンデだが、6万人の観客を集めるポテンシャルを持っていることが証明された。

 潜在能力はとてつもなく大きい。それをどれだけ発揮できるかは、ピッチにおける選手たちのプレーだけでなく、広報室と事業部のアイデアと実行力にかかっている。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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