曖昧な評価に終わった川島永嗣の挑戦 降格の危機から救えず、退団は決定的か

寺沢薫

壊滅的だった守備組織

クラブは守備に深刻な問題を抱えていた。川島は守備陣全体をまとめあげることまではできなかった 【Getty Images】

 結局、ダンディー・Uが降格に追いやられた最たる理由はここにある。現地メディアに「脆弱」「トラブルだらけ」と散々たたかれ、あるマッチレポートでは「自滅することを決めていたかのよう」とまで書かれてしまうほど壊滅的だった守備組織に根深い問題があったのだ。

 それを象徴するようなエピソードを、キャプテンを務めた守備的MFのポール・マトンが『クーリエ』紙のインタビューで語っていた。いわく、降格が決まったダービーマッチで敵の決勝点が生まれたFKの場面で、守備を巡って川島との間に言い争いがあったのだという。

「エイジは僕に2枚の壁を作れと叫んだ。僕が壁に入れば、誰かが僕のいたポジションを埋めなければいけない。だが、それがなされず、得点した選手をフリーにしてしまったんだ。だから試合後、口論になった。1−1のスコアで、あの角度からのFKなら壁は2枚もいらないと思ったからね」

 そして、キャプテンはこう続ける。

「決断の悪さ。それが僕らを要約していた。経験豊富なプロとして、僕はGKに言わなきゃいけなかった。『絶対に可能性はない。オレはこの位置のままだ』ってね。結局のところ、僕らは1年中、そういう間違った決断を続けてきたんだ。どれかひとつが降格の原因じゃない。シーズンを通じてパフォーマンスが悪かったんだ」

 もちろん、GKひとりでどうにかできる問題ではないだろう。ただ、川島に対する現地評が総じて曖昧なものになったのは、好守や美技だけでなく、守備陣全体をまとめあげて一枚岩の集団を作り、チーム全体に好影響をもたらせるような“絶対的インパクト”が期待されていたからではないだろうか。

契約延長の可能性もあるが……

ヨーロッパでのチャレンジ継続を希望している川島。来季はどこでプレーするのか 【写真:アフロ】

 とにかく、来季を2部で戦うことになって大幅な予算縮小が必要になったダンディー・Uは、降格決定のわずか2日後に、今季限りで契約が満了する8選手といずれも新契約を結ばないことを発表した。そのリリースリストに、シーズン終了までの短期契約だったはずの川島は含まれていなかったが、それは“1年の契約延長オプション”が存在するからだと言われる。だが、5月24日付けの『クーリエ』紙はクラブがそのオプションを取り下げたとし、川島の退団は決定的だと報じている。

 もちろん、契約に関しては情報が開示されていないので、そんな条項が存在するのか、また取り下げが可能なのかといった辺りは定かではない。だから今後の展開次第で、まだ残留に転ぶ可能性もあるだろう。ヨーロッパでのチャレンジ継続希望を明言している本人にしても、再び“無所属”に逆戻りするリスクは避けたいはずだ。

 ただ、来季の彼がどこでプレーするにしても、苦しくも学びが多かったスコティッシュ・プレミアでの半年間は必ずそのGK人生において血となり、肉となっていくはずだ。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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