GK川島がクラブから期待される理由 降格圏からの“奇跡の残留”再現なるか

寺沢薫

波瀾万丈なスタートとなったスコットランドでの挑戦

ダンディーFCとのローカルダービーは、川島にとって苦いデビュー戦となった 【写真:ロイター/アフロ】

 川島永嗣のスコットランドでの挑戦は、この上なく波瀾万丈なスタートになった。

 11月にダンディー・ユナイテッド加入で合意していたにもかかわらず、外国人労働許可証の発行が遅々として進まずに、2カ月近くも待たされたこともそうだったが、ようやくピッチに立てるようになってからも試練が続いている。

 1月2日(以下、すべて現地時間)、デビュー戦となった地元の宿敵ダンディーFCとのローカルダービーは1−2で逆転負けを喫した。この試合、川島は1点リードで迎えた前半41分にハイボール処理を誤ってしまう。ペナルティーボックス内の密集地帯に高々と放り込まれた相手のFKに対するパンチングが弱々しく、こぼれ球をゴールに蹴り込まれて相手に同点ゴールを許したのだ。

 敵のシュートがDFに当たってコースが変わった2失点目こそノーチャンスだったが、やはり1失点目の印象が強く、ミクス・パーテライネン監督は「最初の失点は明らかにミスだった。重要な時間帯だった」と話し、初陣に「Not well enough(上出来ではなかった)」という評価を下した。スコットランドの日刊紙『スコッツマン』も総じて「堅実なデビュー戦だった」としつつ、「同点ゴールの場面では彼に責任があった」とはっきり書き記した。

セルティック戦では好セーブも見せたが……

セルティック戦では4失点したものの、好セーブも見せた川島(右) 【写真:ロイター/アフロ】

 1週間後のスコティッシュFAカップ4回戦では、3部のエアドリーオニアンズ相手に1−0で完封し、川島もチームの勝利に貢献した。だが、リーグ2戦目にして、本拠地タナディス・パークの芝を初めて踏んだ15日のセルティック戦では、またもスコットランド・フットボールの洗礼を浴びた。

 リーグの絶対王者にして今季も首位を走るセルティック相手に、ダンディー・ユナイテッドは1−4の大敗。DFのミスからエースFW、リー・グリフィスとの1対1を強いられた1失点目、クロスに対して明らかにDFの配置がバラバラでフリーのグリフィスにシュートを許した3失点目、クリス・コモンズに完璧なジャンピングボレーを決められた4失点目と、4つのゴールのうち3つはGKの過失と言うには酷なものだった。だが、FKから決められた2失点目の対応がまずかった。川島はクロスに飛びかかるもボールに触れることができず、相手にやすやすとヘディングシュートを許してしまったのだ。

 リーグ最強の攻撃力を誇るセルティック相手に12本もの枠内シュートを浴びたダンディー・ユナイテッドにあって、川島はいくつか好セーブも見せた。この試合の採点を掲載したスコットランドの大衆紙『デイリー・レコード』は川島に「6点」という評価をつけた。これは敗軍にあっては平均的な数字で特別悪くはなかったのだが、寸評ではやはり「2失点目の場面ではあまりクレバーに見えなかった」とミスがクローズアップされてしまった。

 前節の“ダンディ・ダービー”でのミスも頭に残っていたのだろう。『BBCスコットランド』の記者もマッチレポートの中で「unconvincing Kawashima(疑わしい川島)」という表現を使っており、日本代表守護神の実力をまだ信じ切れていないようだ。

英国圏では必須のハイボール処理の課題克服

 ハイボール処理は、英国圏でプレーするGKにとって大きなテーマである。伝統的に“フィジカル主義”が色濃いイングランドやスコットランドでは、今でも“デカくて強い”ことがGKの評価において大きなウェートを占めている。たとえば、リバプールのシモン・ミニョレは優れたシュートストッパーであっても、セットプレー対応の稚拙さゆえ、批判が絶えない。

 今でこそ世界最高峰のGKとされるマンチェスター・ユナイテッドのダビド・デ・ヘアも、加入当初は抜群の敏しょう性や巧みな足技よりも、線の細さと空中戦に弱いことばかりが取り沙汰されたものだ。

 もっとも、川島自身も「ボックス内でベルギー時代より強くならないといけない」と語り、すでに文化の違いは理解している。次々と放り込まれるクロスに難なく対応できるようになれば、さらに成長できる。そういったもくろみの上で、彼は異国でのチャレンジに踏み出したのだろう。

 そして、ハイボール処理が“ミクロな視点”で見た課題だとすれば、川島にはより“マクロな意味”で期待されていることもある。前述の通り、ダービー後に川島のクロス対応を「ミスだった」と指摘したパーテライネン監督だが、同時にこうも語っている。

「彼は強い個性を持ち、ドレッシングルームでの振る舞いも素晴らしく、責任感がある。(ミスした後の)彼の反応を見てほしい。殻にこもることなく、強い個性を発揮し続けた。うちの守備が緩かった場面で決定的なシュートを素晴らしいセーブで止めてくれた。GKはフィールドプレーヤーよりもミスをハイライトされやすい。不運だったが、われわれはエイジの能力を知っている。そして、われわれは彼を全面的に信頼している」

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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