北朝鮮が外国人監督を招へいした理由 Jリーグで活躍する在日選手の立場は?

キム・ミョンウ

代表で活躍してきた”海外組”の今後は?

清水エスパルスで活躍する鄭大世など、在日選手の立場はどうなるのだろうか? 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 もう一つ気がかりなことがあった。Jリーグでプレーする在日コリアン選手たちの立場だ。

 南アフリカW杯には安英学(アン・ヨンハ=横浜FC)、鄭大世(チョン・テセ=清水エスパルス)が選出され、昨年のアジアカップには梁勇基(リャン・ヨンギ=ベガルタ仙台)が出場し、ロシアW杯のアジア予選には李栄直が出場してチームに大きく貢献している。北朝鮮で育った選手とはプレースタイルが異なる在日選手、いわゆる“海外組”が加わることで、チーム内に良いアクセントを生み出してきた。

「アンデルセンが指揮官になったいま、在日選手がチームに必要かどうなのかは、監督の目で見極めていく。それはどの国の監督も同じだと思います。代表のチーム作りが一から始まったいま、在日選手の代表の座を懸けた戦いは白紙状態に戻ったということです。つまり、誰にでもチャンスがあるということです」

 そう語るのは、在日本朝鮮人蹴球協会の金光浩(キム・グァンホ)副会長。これまで同協会は本国サッカー協会と協議を重ね、選手のJリーグでのデータや映像を本国に送ったり、平壌で行われる代表チームの合宿に参加させたりして、実力を確かめてもらうといった機会を与えてきた。

「アンデルセンにも在日Jリーガーのプレーは、しっかり見てもらうことにしています。梁勇基や李栄直を始め17〜18人分の資料を送り、今シーズンのタイミングを見ながら、代表合宿でテストさせることも考えています。日本で育った彼らのエッセンスを積極的にチームに取り込んでいければいい」(金光浩副会長)

梁勇基「どんな指導をするのか早く見たい」

仙台でプレーする梁勇基(左)は新監督についての期待を口にする 【写真:ロイター/アフロ】

 では、在日選手たちはアンデルセンの代表監督就任をどう受け止めたのか。

 梁勇基に話を聞く機会があったのだが、その時にこんなことを明かしてくれた。「北朝鮮代表がロシアW杯のアジア最終予選に進んだ場合、チームに招集がかかっていたんです。けがが長引いてしまって、2次予選のフィリピン戦に行けなかったのですが、まさか最終予選に進めなくなるとは思っていなくて……。すごく残念ですけれど、次にまた代表に呼ばれるように国内で結果を残さないといけない」

 梁が続ける。「海外の指導者が代表監督になることで、サッカーのスタイルがどう変わっていくのか楽しみですし、同国サッカーの発展のためにはすごく良いこと。朝鮮選手のポテンシャルは高いので、あとはそれを監督が細かい戦術やトレーニング方法をどれだけ浸透させていけるかだと思います。どんな指導をするのかは早く見てみたいですね」

 在日Jリーガーの若手のなかで、いまもっとも北朝鮮代表に近い李栄直はこう話す。

「W杯予選もスタメンで戦い、チームに溶け込めていたので、自信はつきましたね。ただ、2次予選の最終戦のフィリピン戦に出られず、最終予選に進めなかったのはすごく悔しい。国内の監督ではない、アンデルセン監督がどのようにチームを作っていくのかは興味があります。もしかしたら、戦術の理解度はJでプレーしている選手のほうがスムーズかもしれない。まずは監督の目に留まるプレーを日本でしていきたい」

 在日Jリーガーに代表入りのチャンスが広がっているのは確かだが、本国の選手も代表の座は簡単には譲らないと意気込んでいるに違いない。あとは、表舞台でのお披露目を待つばかり。アンデルセン率いる新生・北朝鮮代表をわれわれが目にするのは、来年12月に日本で開催される東アジアカップになるだろうか。欧州で培われたアンデルセンの指導が、北朝鮮国内のサッカーにどのような変化をもたらし、独自のスタイルを生み出していくのか、今から楽しみは尽きない。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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