サッカー熱上がる北朝鮮の大変革=国家を挙げてジュニア年代育成を実行

キム・ミョンウ

北朝鮮サッカー界に大きな変革が起こっている

2014年ブラジルW杯はアジア3次予選で敗退となった北朝鮮。しかし国内のサッカー熱は上がり大変革を迎えている 【写真:アフロ】

 最近、テレビのワイドショーで“北朝鮮”という単語を聞かない日はないと言っても過言ではない。それくらい北朝鮮に関する動きが注視されているわけだが、政治の世界とは別に、サッカーの強化に大きな変革が起こっていることを知らない人は多いだろう。

 2014年ブラジルワールドカップ(W杯)に出場する32カ国が決定したが、その中に北朝鮮代表は含まれていない。2010年南アフリカ大会では、44年ぶりに本大会出場を決めた北朝鮮だったが、今回はアジア3次予選で敗退し、2大会連続出場は果たせなかった。

 もちろん、次に狙うのは18年ロシアW杯となるのだが、その先の22年カタールW杯まで見据えた強化が始まっているという。

スペイン、イタリアにジュニア選手を派遣

 それは今年10月、スペインやイタリアなどの欧州へジュニア選手を派遣して育成をスタートさせたことだ。まずは、その中身について在日本朝鮮蹴球協会理事長で朝鮮サッカー協会副書記長の李康弘氏に聞いた。
「すでに日本メディアでも報道されたように、スペインとイタリアに選手が留学する話は事実です。今年5月に開校した平壌国際サッカー学校の選手たちからの選抜者が留学の対象となっています。10月末にスペイン・バルセロナの養成団体『フンダシオン・マルセ』で10〜11歳の14人の選手が留学をスタートさせました。期間は1年です」

 現在、スペインに留学している北朝鮮選手たちは、すでに生活にも慣れてきたようで、スペイン人選手たちと1日約3時間の練習で汗を流し、現地の学校にも通っているという。

 李氏は続ける。
「イタリアには10〜12歳の20人が留学することが決まり、予定よりも1カ月遅れて12月11日に到着したようです。イタリア・ペルージャにある会社『イタリア・サッカー・マネジメント』と契約を結び、トレーニングを行う予定です。もちろん、選手だけでなく、コーチの養成プロジェクトも同時に行っていきます。今後はブラジルなどの南米にも選手を送る計画があり、そこから海外クラブでプロになった選手たちが、さまざまな経験を積み、将来的には代表の強化につなげたいという考えです」

世界の潮流である育成を本格的にスタート

 ここに来てようやくジュニア強化に本腰を入れ始めたのには理由がある。一にも二にも、国民が代表チームに五輪やW杯での活躍を願っているからであり、代表チームやファンの熱が国の政策の一つに変わったというわけだ。
「代表チームが前回の南アフリカW杯に出場したことで、北朝鮮国民のサッカーへの関心がグッと高まりました。それを政府も感じ取っていたわけです。4年前は惨敗でしたが、朝鮮人民たちに強いインパクトを残しましたし、自分たちの国もやればW杯に出られるんだと思った人は多かったと思います。ブラジルW杯は出場を逃しましたが、代表チームには世界で勝ってもらいたいという要求が高まっています。国は国民の文化生活向上を掲げているのですが、その中にサッカーが大きく位置づけられたというわけです。だからこそ国からのバックアップが大きいんです」(李氏)

 ジュニア育成が大切なことは、世界の有名クラブやJリーグチームを見ても、もはや当然のこと。だが、その“潮流”に取り残されていたのが北朝鮮だった。
「過去、朝鮮サッカー界はジュニア育成に力を入れてきませんでした。近年の朝鮮サッカーが低迷している原因がどこにあるのかを議論してきた結果、ジュニアからの育成が大切だという結論に至りました。今までは各地域の学校のサッカー部は、協会の管理下になく強化に限界がありました。サッカー強豪国には、サッカーに専念できる環境を整えて育成するプログラムがありますが、それを朝鮮でも本格的にスタートさせたということです」(李氏)

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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