地元・熊本にGI初勝利の吉報を! クイーンズリングと挑むヴィクトリアM

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手術できず馬房で亡くなった愛馬たち

2011年に廃止された荒尾競馬、これにより九州の地方競馬は佐賀のみとなった(撮影:大恵陽子) 【netkeiba.com】

 吉村が生まれ育ったのは、熊本県の地方・荒尾競馬場(2011年廃止)。父は調教師だった。

「子供の頃、テレビで見るレースと目の前のレースと、同じ競馬なのになんで違うのかなって不思議に思っていました。でも、だんだん地方と中央の壁が分かりだして、全国的に注目されるのは中央だと認識しました。父親も『競馬の仕事をするんだったら、競馬会(JRA)に入れ』ってよく言っていました。そこで、JRAの競馬学校騎手課程を受験して合格したんですが、体重の問題で入学を辞退したんです」

 JRAで騎手になることを諦め、地方競馬の父の厩舎で約6年、厩務員として働いた。

「地方競馬の中でも九州はどちらかというと下のクラスに位置します。脚元に不安を抱える馬をなんとか無事にレースで走らせることも多かったので、脚のケアをしっかりすることは勉強になりました。手術できる施設が荒尾にはなくて、JRAでは助かるような骨折も荒尾では安楽死処分になることも多く、馬への愛情は変わらないのに、何とかしてあげたくてもできない状況が一番辛くて嫌でしたね」

 目の前の命を救う手段はあるのに、自分は何もしてあげられない歯がゆさと悔しさ。何年経っても忘れられぬ悲しい記憶は、「無事是名馬」の馬づくりへとつながっている。

「JRAには治療施設も、レーザーやマイクロなどの機械も揃っています。だから、開業当初からスタッフ全員に『環境が整っているのだから、やれることはすぐやろう』と言っています。やってあげたくてもやってあげられない馬もいますから」

 父の言葉に従い「競馬会(JRA)に入る」ことで、荒尾時代の葛藤は解消された。

池江泰寿厩舎では「普段通りの積み重ねが一番大事だと学んだ」と吉村調教師(撮影:大恵陽子) 【netkeiba.com】

 また、調教助手をしていた頃に栗東・飯田明弘厩舎(解散)を経て所属した池江泰寿厩舎では、競馬界の頂点を味わった。ドリームジャーニーや三冠馬オルフェーヴルの調教に跨り、GIを制覇。かつて少年時代にブラウン管越しに見ていた華やかな世界に、自身が身を置いた。

 しかし、全国から注目を浴びる華々しい世界で必要なのは“特別な何か”ではなかった。

「オルフェーヴルは、シンザン記念の頃から気持ちと肉体が徐々に噛み合い、ダービーを勝った後には『無事なら同世代では抜けている』と確信しました。でも、大レースだからって特別なことをやるわけではないんですよ。普段通りの積み重ねが一番大事だということを池江先生のところで学ばせていただきました」

 ヴィクトリアマイルに向けてクイーンズリングも基本的なところは昨春と変わらない。

「休養を挟み、トモがだいぶ分厚くなってきました。まだ完成はされていませんが、その域に近づいてきた感じはします」

 体は、数字上ではデビュー時と変わらないが、中身は筋肉がつきパワーアップした。同い年のミッキークイーンも、年上のショウナンパンドラも、昨年結果を残したのは中距離。

「今年は強い馬が揃っていますが、マイル戦は十分チャンスがあると思います。1400mよりも道中じっくり構えられる分、タメも効くでしょう。府中の長い直線ではじけてくれるんじゃないかな。ミルコ(デムーロ)が引き続き乗ってくれるのも頼もしいです」

地元に吉報を届けてほしい

 先月、熊本県を大地震が襲った。

「まさかあんな大きな地震が起きるなんて思ってもみませんでした。荒尾は福岡寄りなので、揺れは大きかったものの大丈夫なようです。親戚も夜は避難していますが大丈夫でした。義援金を送らせていただきましたが、阿蘇や大分をはじめ観光客も減るでしょうし、これからが大変だと思います。まずは地震が早く収まってほしいですね」

 かつて騎手課程に合格した時、吉村の存在は地元で話題になった。有明海沿いの小さな競馬場からスター誕生の予感に人々は沸いた。クイーンズリングと挑むヴィクトリアマイルで、ふたたび地元に吉報を届けてほしい。

(文中敬称略)

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