親に何と言われようが、子供に罰を与える スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(6)

木村浩嗣

罰が罰で終わっては意味がない

こちらは連盟所属チームの試合風景。壁の作り方、壁に入らないマーカーとキーパーの立ち位置など鍛えられている。戦術の浸透しているチームは規律も浸透しているものだ 【木村浩嗣】

 練習追放というのは1シーズンに1回あるかないか、というところだ。親とのトラブルは必至だが、必要だと思ったらやる。順風満帆だった昨シーズンも1度だけやった。

 自分のプレーがうまくいかないと、その欲求不満で他の子の足を蹴り上げる子がいた。例えば、ドリブルで抜かれた腹いせに足を引っ掛ける、というようなケースだ。一発目のラフプレーで注意したのに次のプレーで同じことをしたので、「怒るんなら自分に怒れ! もうお前は帰れ!」と怒鳴ったら、向こうも泣きながら「やめてやる!」と言い返すから、「やめたいならやめろ! 反省しないなら二度と来るな!」と言ってやった。そうしたら翌日やって来た。目が合うと「来たぞ!」と胸を張ってみせたのを覚えている。

 彼が劇的に変わったのはその日からだ。ラフプレーは皆無。本当にうそのようにゼロとなった。もともと資質はあったので成長し、選手登録もされてシーズン終わりには準レギュラーにまでなった。監督の指示を最も忠実に守る勇敢なセンターバックに育ったのだった。今も私に「アミーゴ(友人)!」と声を掛けてくるのでかわいらしい。

 彼の中でどんな変化があったのかは分からないが、罰が怖いから従っていたのでないことは分かる。罰が罰で終わっては意味がない。罰とは、結局は罪を繰り返さないためのきっかけ、反省のためのきっかけである。もちろん、厳罰であるほどショックは大きく意識が変わる可能性も大きくなるが、リスクも大きくなる。彼があのままチームを去ることだってあり得たし、他のケースでは実際に来なくなった子もいる。なるべくなら避けた方がいいが、必要なら断固としてやる。そう決めている。

モチベーションを植え付けるのが最も難しい

 さて、同じ子供相手でも罰がほとんど通用しない現場がある。それが肝心の学校教育の現場である。スペインは厳罰方式で小学生にも留年制度があり、次の学年に進級できない子の割合がヨーロッパの中でもかなり多いのだが、その割に学力は向上しない。

 友人の小学校教師、中学校教師たちに話を聞くと、最大の敵はモチベーションの低さである。態度の悪い子は教室から追い出されて自習室送りになり、自習室に何回か行くと累積警告と同じことになり、ついにはレッドカード(停学処分)が出る仕組みとなっているのだが、これがさっぱり効果が上がらない。

 なぜか? 教室から追い出されても学校から追放されても、そうした子供たちはまったく悔しがらない。そもそも勉強が嫌いなのが問題なのだから当然である。私のスクールはサッカーが大好きで、という子が集まっており、サッカーを取り上げられるのはおそらく彼らの短い人生の中で最も辛いことの一つだろう。試合に招集されないと悔し涙を流す者もいる。その涙の分、頑張れるわけだが、学習の機会を取り上げられても痛くもかゆくもないのでは、反省のしようがない。

 サッカーでもそうだが、もともとゼロであるモチベーションを植え付けるのは最も難しい作業である。当然ながら、子供に落第点などつけようものなら、親の反発は招集外の比ではない。脅迫や暴力も珍しいことではない。教師たちの苦悩の深さがうかがえる。

 やる気満々の子が集まって来るサッカースクールというのは、ある意味、めったにない理想の教育現場と言えるのではないか、と思っている。スペイン社会のためにもこのチャンスを逃してはならない。親に何と言われようが、私はどんどん罰を与え続けるのみである。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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