「集客」から考える安定したクラブ経営 コンサル目線で考えるJリーグの真実(2)

宇都宮徹壱
「Jリーグの現状を数字から読み解く」というコンセプトでスタートした当連載。今回から具体的なテーマを切り口にしながら、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎さんにお話を伺うことにしたい。

 記念すべき1回目のテーマは「集客」について。各クラブのホームゲーム平均入場者数は、サポーターにはおなじみの数字であるが、コンサルはこの数字をさらに深掘りして読み込んでいる。里崎さんが集客で注目しているのは、浦和レッズでもアルビレックス新潟でもなく、川崎フロンターレと松本山雅FC。まずはその理由について語っていだだきながら、集客の奥深さを探っていくことにしたい。(取材日:2016年3月8日)

試合日以外の活動にも積極的な川崎と松本

イベントや露出で観客の関心をひく活動を継続的に続けている川崎。選手や監督にもそのマインドが浸透している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――今回のテーマは「集客」です。ここ数年来、浦和や新潟が集客に関して常に上位を走っている印象ですが、コンサル的に見て、特に集客に意識的なクラブはどこでしょうか?

里崎 いくつかありますが、公表情報から感じられるところとしては、川崎は集客に対して相当アンテナを張っていますね。それと松本が面白い動きをしている感じです。まず川崎に関しては、スポンサーも含めたステークホルダーに対しての集客施策を、チームを挙げて取り組んでいる姿勢が前面に出ていますよね。フィールドマネジメントではなく、ビジネスマネジメントの名物部長、天野さん(春果=プロモーション部部長)を中心に、いろいろなイベントや露出で観客の関心をひく活動を継続的に続けている。僕が評価したいのは、チームのフィールドマネジメント側にいる選手や監督も含めて、そのマインドが浸透しているように感じられることです。

──確かに、選手を巻き込んでいますよね。傍から見ていると、選手も喜んでバナナのコスプレをしているように見えます(笑)。一方で川崎は、試合日以外でも地域と触れ合う機会を積極的に作っていますよね。

里崎 ホームタウン活動の充実度でも、川崎は小学校を回って算数ドリルを配っているのがよく知られています。地元において自分たちのクラブを認知し、サポートしてもらうためには、試合だけやればいいわけではないという意識をしっかり持っているクラブですね。Jリーグの理念にもしっかり合致していますし。

――松本に関しては、川崎と違って地方のクラブであり、それほどビジネスマネジメントを考えているようには見えないのですが、いかがでしょうか。

里崎 確かに意図的にあそこまで作り上げているのかというと、そこは実はどうかな、というところは確かにあるんですけど(笑)。ただ、大月(弘士)前社長の時代から、「どう地元に認知してもらえるか」ということに関しては常にアンテナを張っていたという印象があります。典型的な1つの取り組みとしては、「山雅ドリームサミット」という会合。誰でも参加できるオープン型コミュニティのプラットフォームを、クラブ自身がプロデュースして定期的に開いていました。いわゆるサポーターズミーティングとは別に、「山雅を使って地元を活性化させたい」という人なら、誰でも参加できるんですよ。私も参加させていただいたことがあります。

──いかにも松本らしいアプローチですよね。

里崎 「一生懸命やっているので、試合を見に来てください」ではなく、「ウチを使って何かやりませんか?」というスタンス。専門用語で言うと「プロダクトアウト型」ではなくて「マーケットイン型」のアプローチなんですね。そういった姿勢を貫き、実績を積み重ねた結果として、あの集客につながったというのが私なりの仮説です。

スポーツ興行には「米国型」と「ヨーロッパ型」がある

スポーツ興行には「米国型」と「ヨーロッパ型」がある。熱狂的なファンがいて、生活の中にサッカーが息づいている浦和は「ヨーロッパ型」と言える 【写真:築田純/アフロスポーツ】

――川崎と松本はクラブの成り立ちも立地もまったく異なりますが、共通しているのは、絶対的に強いクラブでもタイトルを持っているわけでもないということ。ただし、どちらも勝利以外のものをちゃんと用意しているため、観客はリピーターになっているわけですね。

里崎 そうだと思います。最近のパ・リーグの球団でもよく言及されている「ボールパーク構想」に近い発想だと思います。試合を含めたエンターテインメント空間を楽しむ。その満足度をいかに高めていくか、というところを積極的に取り組んでいるクラブの代表格と言えるでしょうね。これを「米国型」とするなら、もう一方で「ヨーロッパ型」というのがあると思うんです。つまり熱狂的なファンがいて、生活の中にサッカーが息づいていて、ヒリヒリした試合を楽しんでいるという。

――なるほど。ヨーロッパ型だと、浦和や鹿島アントラーズが筆頭でしょうか。

里崎 そうですね。清水エスパルスはちょうど中間くらいでしょうか。むしろ「試合オリエンテッド(志向)」という意味では柏レイソルが近いんじゃないですかね。つまりスポーツの楽しませ方には、米国型とヨーロッパ型という大きなカラーリングがあって、たとえば川崎みたいにマスコットのパフォーマンスとか、スーパーフォーミュラカーが走ったりといったことを浦和のホームゲームでやったりしたら、絶対にフロントともめると思うんですよね(苦笑)。

──そりゃそうですよ(笑)。でも、どっちがいい、悪いという話ではなくて、それぞれのクラブが培ってきた観戦文化というものがありますからね。

里崎 今いる人たちのニーズに合わせることは大事なんですが、ただJリーグが抱えている構造的な問題として、新規のサポーターがなかなか増えてくれませんし、直近3年は平均年齢層が0.7歳ぐらいずつ上がっている。こういう状況を何とかしたいと言いながらも、なかなか今いるコアサポーターの声が大きすぎて、そういった集客施策が打つに打てないクラブがあるんだろうなとは思います。

――そうした中、集客アップの要素として外せないのが施設面、つまりスタジアムだと思うんですよ。今年はガンバ大阪の新スタジアムがオープンしましたが、私の周囲でも「今年はぜひ吹田スタジアムに行きたい」という声をよく耳にします。

里崎 ヨーロッパでも米国でも、スタジアムビジネスがクラブ収入の大きな柱となっていますよね。でも日本の場合、スタジアム収入は実質的にゼロ。スポンサー収入や入場者収入はあっても、収入のエンジンがひとつ死んでいるような状態です。逆にスタジアム収入というエンジンが搭載されたら、クラブ収入もまったく違ってきますし、スタジアムが魅力的であれば集客アップのキーファクターにもなる。ですからスタジアムの建設や改修というものは、そういった面でも避けては通れないものだと思っています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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