内容にそぐわぬ結果を得たアルゼンチン 勝つには勝ったが、課題は山積み
収穫は2連勝という結果のみ
アルゼンチンは3月のW杯南米予選で2連勝を飾った 【写真:ロイター/アフロ】
だがこの2試合で得られたポジティブな収穫はそれだけだった。そしてフットボールは数字や統計だけでは語れないスポーツであり、プレーの内容や現状に至った過程、対戦相手などについても考慮する必要がある。
アルゼンチンに敗れたチリは万全な状態にはなかった。監督は昨年にコパ・アメリカ初優勝を成し遂げたホルヘ・サンパオリからフアン・アントニオ・ピッツィに代わったばかりで、中心選手のホルヘ・バルディビアやアルトゥロ・ビダル、エドゥアルド・バルガスは不在。しかも試合中には前半20分までにマティアス・フェルナンデスとマルセロ・ディアスが相次いで負傷交代するトラブルもあった。
そんなチリに対し、ほぼベストのメンバーで臨んだアルゼンチンはリオネル・メッシが持つ世界最高のタレントと攻撃陣の決定力に頼って勝利を手にしたものの、後半を通してボールを支配することができなかった。
5日後に行われたボリビアとのホームゲームは、ブエノスアイレスのモヌメンタルではファンの後押しが感じられないという珍しい理由により、ピッチコンディションの悪いコルドバで開催された。この試合も2−0で勝ったとはいえ、相手は横浜マリノス(現横浜F・マリノス)でのプレー経験があるフリオ・セサル・バルディビエソ監督やマルセロ・マルティンスくらいしか国際的な知名度がない弱小チームだった。
アルゼンチンはそんな相手に対してピッチとボールは独占しながら、流れの中からは1ゴールしか決めることができなかった。追加点は存在しないPKによるもので、これを決めたメッシは代表での通算得点を50に伸ばし、ガブリエル・バティストゥータが持つ同代表の最多得点記録まであと4ゴールに迫った。しかし、この試合で特筆すべきことは他に何もなかった。
マルティーノ監督のチームが抱える問題
左ウイングのディ・マリアは右のメッシと比べて低い位置まで下がることを強いられている 【写真:ロイター/アフロ】
例えばW杯ブラジル大会で評価を上げた左サイドバックのマルコス・ロホは、好調時とはほど遠い状態にある。ハビエル・マスチェラーノが支えとなっている中盤では、他の2人(ラツィオのルーカス・ビリアとセビージャのエベル・バネガ)が所属クラブでこなしているプレーしかできず、4−3−3のインサイドMFに求められる役割を十分にこなせていない。また今回の2試合では、彼らよりFWに近いタイプでメッシと息の合った連係プレーが可能なハビエル・パストーレの不在も響いていた。
前線の状況も変わった。セルヒオ・アグエロとゴンサロ・イグアインはアレハンドロ・サベーラ前監督の下では同時起用されることも多かったが、マルティーノは2人にセンターFWの一枠を争わせている。
右ウイングのメッシは中央に入っていく傾向があるが、できる限り高い位置取りを保ってプレーしている。一方、左ウイングのアンヘル・ディ・マリアは多くの場合、左インサイドハーフのバネガがカバーしきれないスペースをケアするために低い位置まで下がることを強いられている。
サベーラ時代のアルゼンチンはディ・マリア、メッシ、イグアイン、アグエロらの個の力を生かし、ライバルのミスを突くカウンター狙いの攻撃に徹していた。そのためゲームをコントロールするためにポゼッションを保ち、そこから攻撃を組み立てる展開力の欠如が課題だったのだが、少なくとも当時のチームは得点力だけは心配する必要がなかった。
それが現在のチームは真逆の問題を抱えている。ほぼ常にボールポゼッションは保てているものの、そこからゴールに辿り着く道筋が見いだせないのだ。この問題は相手に引いて守られた際に顕著となるだけでなく、ホームでエクアドルに0−2で敗れた昨年10月の南米予選初戦のように、スピーディーなアタッカーを擁するライバルに格好のスペースを提供し、ディフェンスラインがカウンターの危険に晒される状況を招くことすらある。