アルゼンチンとブラジルが直面する危機 W杯南米予選序盤でつまずいた2強

最悪のスタートを切ったアルゼンチン

メッシ不在の影響は大きくアルゼンチンはエクアドルに対し、0−2の完敗を喫した 【写真:ロイター/アフロ】

 10月8日(現地時間)に行われたワールドカップ(W杯)南米予選の第1節、首都ブエノスアイレスにエクアドルを迎えたアルゼンチンの初戦には、わずか1万3000人の観衆しか集まらなかった。数カ月前のコパ・アメリカ決勝でチリに敗れて以降(0−0からのPK1−4)、国内の代表熱が下火となっていただけでなく、エースのリオネル・メッシがけがで不在でも難なく勝てるだろうと、誰もが考えていたからだ。

 だが大方の予想を覆し、この日のアルゼンチンはわれわれが記憶する限り最低の試合内容に終始した末、言い訳の余地なき0−2の完敗を喫してしまう。さらに10月13日アウェーでパラグアイと対戦した第2節もスコアレスドローに終わった。

 1分け1敗という最悪のスタートを切ることになったアルゼンチンにとって、11月の代表ウィークで迎えたブラジル、コロンビアとの2連戦における希望は、ホームで隣国のライバルをたたくことにあった。ドゥンガ率いるブラジルもまた、深刻な危機に直面していたからだ。

 自国開催のW杯でドイツに1−7という歴史的大敗を喫して以降、早急な軌道修正を求められてきたブラジルは、現在も前代未聞と言える攻撃のタレント不足が続いている。

ブラジル戦で露呈したメッシへの依存

ブラジルはルーカス・リマ(左)の同点ゴールで追いつき、試合は1−1の引き分けに終わった 【写真:ロイター/アフロ】

 今回のアルゼンチン戦からはコパ・アメリカで受けた出場停止処分を消化し終えたネイマールが戻ってくる。アルゼンチンはメッシに加えてセルヒオ・アグエロ、カルロス・テベス、右サイドバック(SB)のパブロ・サバレタらが負傷中だが、それでもアルゼンチンの国民は10年ぶりとなるブラジルとの”スーペル・クラシコ”(伝統の一戦)勝利のビッグチャンスだと期待を抱き、4万5000人超の観衆がエスタディオ・モヌメンタルに詰め掛けた。

 主力の数人を欠いたものの、アルゼンチンは立ち上がりから勝利を目指して猛攻を仕掛け、本調子を取り戻しつつあるアンヘル・ディ・マリアを中心にゲームを支配し続けた。

 メッシの代わりにはエセキエル・ラベッシ、アグエロ不在の前線にはゴンサロ・イグアインが先発。右SBに起用されたファクンド・ロンカリアはブラジルのGKアリソン・ベッケルの好守を引き出す惜しいシュートを放った。

 アルゼンチン代表監督のヘラルド・マルティーノが決断したもう1つのメンバー変更は、エベル・バネガのトップ下起用だ。同ポジションのハビエル・パストーレがけがで欠場していたとはいえ、この試合のバネガが10月の2試合で十分に機能していなかったパストーレより良い印象を残したことは確かだ。

 アルゼンチンの先制点は34分、ディフェンスラインの裏に抜け出したイグアインにディ・マリアのスルーパスが通り、ゴール前のスペースに走り込んだラベッシがイグアインの折り返しを押し込んだ。後半の立ち上がりにはバネガが決定機を得るも、シュートはポストに阻まれリードを広げることはできなかった。

 対するブラジルの戦略は理解できるものだった。2節終了時点で勝ち点3を手にしていたし、ブエノスアイレスにおけるアルゼンチンとのドローは悪くない結果である。さらには創造性に長けたタレントが不足している現状も考慮し、ドゥンガは守備専門のボランチ2人(ルイス・グスタボとエリアス)をディフェンスラインの前に並べ、2列目には3人のアタッカー(ウィリアン、ルーカス・リマ、ネイマール)を起用して中盤を厚くしたシステムでスタートした。

 だが、ネイマールが本調子とはほど遠いプレーに終始する中、前半のブラジルはただ相手の攻撃に耐えることしかできなかった。そこでドゥンガは、ネイマールのフォローなしにはチャンスどころかボールすら触れそうにない前線のリカルド・オリベイラをベンチに下げ、バイエルン・ミュンヘンで好調を維持するドグラス・コスタを投入する。ルーカス・リマの同点ゴールが生まれたのは、コスタを投入してからわずか1分後のことだった。

 この失点によるショックにアルゼンチンは動揺し、10月の2試合で見せたのと同じ脆さを露呈することになる。

 準決勝でパラグアイを6−1で撃破したかと思えば、数日後にはチリの戦術にはまって無得点に抑え込まれる。ちぐはぐな戦いが目立ったコパ・アメリカ以降も、ここまでアルゼンチンはプレーに持続力がなく、極めて不安定なパフォーマンスを繰り返してきた。この日は主力数人を欠いていたとはいえ、昨年のW杯を通して見られた堅固なアルゼンチンは過去のものとなったと言わざるを得ない。

 失点後のアルゼンチンは時間の経過とともに運動量とインテンシティ(プレー強度)が低下し、ボールを奪っても前に出て行くことができず、個々のポジショニングにも乱れが生じ、焦りを募らせて相手に付け入る隙を与えるようになっていく。一方のブラジルは未来に向けた貴重な布石となる敵地での勝ち点1を確保すべく、自滅していくライバルを尻目に冷静かつ巧みにボールをコントロールするようになった。

 この試合を通し、アルゼンチンはメッシに対する依存度の高さを色濃く印象づけることになった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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