心のコントロールで7年目の飛躍へ――菊池雄星、初の開幕投手で見せた“脱力”

中島大輔

状況によって力を抜くピッチング

プレッシャーのかかる開幕マウンドで、田邊徳雄監督の抜擢を意気に感じて冷静な投球を披露した(写真は3月17日の広島とのオープン戦) 【写真は共同】

 試合序盤をうまく立ち上がることができたのは、自身の心をコントロールできたからだろう。この日のマウンドに登る8日前、オープン戦の広島戦後、開幕マウンドについて菊池はこう答えている。

「当然大事な試合にはなると思うんですけど、あまりそれを意識せずに。相手バッターとかもあまり意識せずに、自分のやれることは限られているので、1週間シャドーピッチングとか、キャッチボールを丁寧にやることを繰り返すだけかなと思っています。あまり開幕戦だからと意識しなければ、うまくいくかなと思います」

 昨季までは、力みまくって自滅するシーンが少なくなかった。当然、菊池にもその自覚はある。そこで今オフにたどり着いたのが、状況によって力を抜いて投げることだった。

「力で行くと、どうしても力に頼ったピッチングしかできなくなるので。カウントをとるところは5、6割で行ったり、勝負どころでは全力で行ったり、少しずつ意識しています」

 そう語る今でも、「理想は思い切り投げて、一緒のフォームで投げられること」という。だが同時に、「(力を入れて投げ続けるのは)そう簡単にうまくはいかないと思う」とも語る。理想はあくまで理想。現実として勝つためにはどうすればいいか、求めるようになったのだ。

「粘り強く投げられたと思う」

「力で行ってしまうと、どうしても多少のばらつきは出てきます。(状態が)いい時ばかりじゃないので、(力で行くと)キレが悪い時には『ダメでした』というピッチングしかできなくなると思う。だからバランス良く投げるクセが、いい時でも悪い時でも試合を作るためにも必要かなという考えです」

 オープン戦最後のマウンドでそう語った菊池は、自身を客観視しながらこう話している。

「公式戦になれば、力が入る場面が必ずあると思う。そういう時に、いかにバランス良く、力任せにならずに投げられるか。これからが楽しみですね」

 そんなシーンが、開幕戦の4回だった。2点先制されて力の入る場面で、ストレートで切り抜けて見せた。だからこそ、降板直後にはこんなコメントを残している。

「開幕投手ということで、チームがいいスタートが切れるようにという気持ちでマウンドに上がりました。調子自体は良く、粘り強く投げられたと思います。次の登板はもう少し長いイニングを投げて、勝てるピッチングをしたい」

今日の投球なら勝てる試合が多くなる

 重圧のかかる試合で力み、ピンチを招いては自滅していく。そうした自分から脱するために、時に力を抜いて投げ、スライダーやチェンジアップ、カーブを織り交ぜながら抑えていく。キャンプ、オープン戦から意識してきたピッチングを開幕戦で見せることができたから、潮崎コーチは菊池に高評価を下したのだ。

「チェンジアップもいいし、最後の方はカーブも使えていたしね。開幕戦、しかも寒い中で投げているから、110球かな。雄星は『えっ? 交代ですか?』という感じだったけど、あのくらいの力の抜きようをしていたら、たぶん150球くらい投げても平気だろうなっていう感じがする。4月に入って、暖かくなってきたらもう少し球数を増やして。(今日は)本来だったら7、8回まで行って、勝つチャンスを設けられたら良かったけどね」

 そう話した潮崎コーチは、次戦以降に目を向けた。

「今日のピッチングしとったら、勝てる試合が多くなるだろうね。でも負けがつかなかったから良かったよ。これから期待できそうだね。一皮むけて、大きくなるかもわからない」

 プロ入り前から注目を浴び続けてきた大型左腕は、25歳を迎える今シーズンに果たして飛躍を果たすことができるか。その第一歩となる開幕戦ではプレッシャーの中で試合をつくり、不運の続いたピンチを乗り切り、球威あるストレートに変化球をうまく織り交ぜて見せた。

 満員の西武プリンスドームで見せたこの日のピッチングは、まだ始まったばかりのシーズンに大きな期待を抱かせるものだった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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