J3で新たな一歩を踏み出す鹿児島  県民の思いを胸に、J1に向けて一歩ずつ

松尾祐希

統合後の困難を乗り越え、悲願のJ3昇格

15年にJFLを4位で終え、J3昇格を達成。鹿児島県民の悲願を手に入れた 【松尾祐希】

 チーム発足初年度を迎えた14年。前年にFC KAGOSHIMAが第37回全国地域サッカーリーグ決勝大会決勝ラウンドで3位となっていたため、いきなりJFLに参戦することとなった。しかし、始動直後から「見た目では1つになっていたと思うのですが、FC KAGOSHIMAとヴォルカの選手で固まることが多かった」(田上)と、それぞれのチームの選手同士で固まる光景がよく見られた。

 田上はチームをまとめるべく、地道な行動を積み重ねた。「僕の力で何ができるというわけではなかったのですが、とりあえず僕から声を掛けて、シーズン最初のころに食事会を開いたりしました」。それがチームとして1つにまとまるきっかけをもたらした。

「開幕戦で勝ったことで、抱えていた不安が良い方向の確信に変わった。みんな不安があったとは思うのですが」(田上)と、開幕戦に勝利したことで選手たちの疑心は完全に払拭(ふっしょく)された。ここから破竹の勢いでJFLを戦い続けると、初参戦ながら3位でフィニッシュ。J3昇格条件である4位以内を初年度にクリアした。ただし、百年構想クラブの申請を行うも、スタジアムの規格やその他の部分で条件を満たせず、J3昇格は先送りになった。

 迎えた15年、「理想とは違いますけど、僕たちだけではどうにもできない部分もある中で、いろいろな人が尽力してくれた」(登尾顕徳GM)ことで、環境面の問題をクリア。あとは再び4位以内を目指すのみとなった。その中で、登尾GMは強い危機感を抱いていた。

「人間というのは時間が経つと飽きてしまう。やっとJFLに上がった中で、周りは『早くJリーグに』という期待感があるけれど、人の興味が冷めるのは早いというのは分かっている。機運が高まっている時にいかなければ、ファンがついてこないなと個人的に思っていた」

 この昇格への追い風をつかめないようであれば、次はいつチャンスが巡ってくるか分からない。「監督とは何度もミーティングをしましたし、『この試合は負けてはいけないポイント』などの話もしました」(登尾GM)。そのかいあって、15年シーズンを4位で終え、悲願のJ3昇格を成し遂げた。さまざまな困難を乗り越えたクラブは、鹿児島県民の悲願を手に入れたのだった。

J1で戦えるクラブを目指して

浅野哲也監督(中央)のもと、鹿児島は初めてのJリーグでのシーズンに挑む 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 16年、鹿児島は新たな一歩を踏み出す。

「チームとしては優勝を目指して、J2昇格要件を満たしたい。クラブも代表と協力をして、要件を満たせるようにやっていきたい。毎年、いろいろな課題が見えてくるのですが、1つずつつぶしながら進歩していき、クラブに関わる全員が進化をしていければいい」(登尾GM)

 最終的には、「鹿児島の人は風土的に鹿児島人が好き。県外にいる鹿児島県出身者も鹿児島が好き。鹿児島愛をすごく感じる土地柄」という鹿児島の風土を生かしつつ、「地元選手に帰ってきたいと思ってもらえるクラブにするのが僕たちの使命。逆に帰ってきた選手が飛躍をしたり、このクラブとともに世界やJ1に羽ばたいてほしい。その中で僕たちもまずはJ1で戦えるクラブを目指していきたい」と、登尾GMは将来像を語る。

 度重なる障害を乗り越えてきた鹿児島。「地域リーグの頃からお世話になっている人もいますし、毎年カテゴリーが上がっていくにつれて、新規のサポーターも増えてきた」(登尾GM)。周りのサポートがあったからこそ、今のチームがある。

 その思いに報いるためにも、「一過性のモノにしたくはないので、少しでもチームの力を上積みして、長年やっていけるクラブを目指す」(浅野哲也監督)。初参戦ということで初年度は幾度となく、困難にもぶつかるだろう。

「不平不満を言わずに、現状に感謝をしつつ、満足はせずに一歩ずつと進めていく」(田上)。謙虚な姿勢があれば、必ずチームは良い方向に進むはずだ。さまざまな人の思いを胸に、鹿児島は3月13日のカターレ富山戦から新たな夢へと走り出す。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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