日本フットサル界が失った大きなもの 「経験不足」露呈でW杯出場を逃す

河合拓

流れが変わった1本のFK

日本はピッチ内で「経験不足」を露呈してしまった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 すべてを狂わせたベトナム戦、ピッチ内で「経験不足」を痛感したのが、GK関口優志(エスポラーダ北海道)だ。日本が2−0とリードした状況で、FP吉川智貴(マグナ・グルペア/スペイン)のファウルからゴール前でFKを与えてしまった。このとき、最初に関口は3枚で壁をつくるように指示を出した。しかし、逸見勝利ラファエル(ベンフィカ/ポルトガル)から「2枚でいいだろ!」と言われ、枚数を変更した。その結果、本来なら壁のある位置にシュートを打たれ、壁の端にいた吉川に微妙に当たったボールは、ゴールに突き刺さった。

 最終的には自分の判断と自らを責める関口は、「そこで3枚にしていたら、直接シュートを打たずにパスを出していたと思うんです。そこからどう流れが変わったかは分かりませんが、違う状況になっていたと思う。そこを振り返ると本当に悔しいです」と、唇を噛む。関口自身、このプレーによる動揺はなかったと話すが、ファインダー越しに見えた表情は冷静さを欠いたように見え、延長戦で決められた同点ゴールも、普段の彼なら止めることのできたものだった。

 関口にとって今大会は、初めて正GKとして臨む大会だった。これまで02年大会から12年大会までの10大会に渡って、日本は川原永光が正GKとしてプレーしていたが、昨季プレーするクラブが見つからなくなり、ひっそりと現役を引退していた。大舞台を経験しているベテランが残っていれば、欧州でベスト4のクラブでプレーしているとはいえ、チーム最年少の選手に耳を傾けず、失点しても動揺なくプレーできていたのではないだろうか。

どこよりも早く20年へのリスタートを

 ここでは例として分かりやすいため関口の名前を挙げたが、当然、彼のこのプレーだけが敗退につながったわけではない。同じベトナム戦では、すでに警告を受けていたFP吉川が4失点目の場面で相手を止め切れなかった。キルギス戦では、キャプテンの滝田学(ペスカドーラ町田)が1失点目でマークミスをし、小曽戸もパワープレーで3度の決定機を立て続けに逃している。森岡薫(名古屋オーシャンズ)にしても1対1で普段ほどシュートを決められなかったし、実戦から半年近く離れていながら復帰した星翔太(バルドラール浦安)も本領は発揮できなかった。ピッチに立った選手たちには、それぞれピッチ上で悔いを残しているプレーがあり、ピッチに立てなかった者にも、何かできたことがあったはずだ。

 決勝戦が行われたウズベキスタンスタジアムには、3人の日本代表選手が観戦に訪れていた。そのうちの一人である仁部屋和弘(バサジィ大分)は、自分たちが戦うはずだった試合を会場で見ることで、次に動き出すエネルギーを蓄えたという。「悔しい経験を蓄積するために見に行きました。その経験がプレーにも、人間性にも出てくると思ったので。切り替えるのは簡単なことではありませんが、ここから切り替えることができれば、僕たちは16年大会に出るどの国よりも早く20年大会へのスタートが切れます。立ち止まっている暇はありません。僕たちが作ってしまった歴史は変わらないので、次に向けてスタートを切らなければいけない」と、前を向いた。

 日本フットサル界が失ったものは、果てしなく大きい。しかし、歴史は変わらないし、時間は進み続けている。何が起きたのかを検証しつつも、しっかりと行動を起こしていかなければならない。

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著者プロフィール

1980年、埼玉県生まれの転勤族。大学在学中の2002年にフットサル専門誌『Pivo!』で取材&雑誌編集を開始。06年からはベースボールマガジン社で『週刊サッカーマガジン』の編集に携わり、ガンバ大阪&セレッソ大阪の担当を務めた。11年にフリーランスに転身。15年からは大宮アルディージャ広報誌『VAMOS』や『サッカーゲームキング』の編集に携わる。

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