笑顔で臨んだコービー最後のオールスター 若手の活躍で感じた世代交代の時間

杉浦大介

大味な試合で次代を担う選手が躍動

試合ではMVPを獲得したウェストブルック(0番)ら次代を担う選手が躍動した 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 ゲームにも少し触れておくと、今年のオールスターは残念ながら上質な内容にはならなかった。多くのダンク、3点シュートが飛び交う激しい打ち合いの末に、前半終了時で92−90(ウェストがリード)という高得点ゲーム。エキサイティングに聴こえるかもしれないが、基本的にディフェンス意識はゼロだけに、すべてが大味過ぎる感は否めなかった。

 試合中、筆者の隣に陣取ったカナダのラジオ放送局は、“選手をよりやる気にさせるためのオールスター改革案”の議論を始める始末。この緊張感のなさは、ゲームが後半に入っても変わらぬままだった。最終的に合計得点、勝利チーム、敗北チームの得点のすべてで新記録という“歴史的”なゲームながら、大方のファンは試合結果のことなどすぐに忘れてしまうのではないか。

 もっとも、そんなゲームの中でも、見るべきものがなかったわけではない。最大の収穫は、コービーやさらにその一つ後のレブロン・ジェームスの世代よりも先の、次代を担っていく選手たちが元気な姿を見せてくれたことだ。

 ウェスタン・カンファレンスでは、ラッセル・ウェストブルックが31得点、8リバウンド、5アシスト、5スティールの大活躍でチームをけん引。2年連続となるMVPを獲得した27歳は、「オールスターくらいは笑顔で楽しまないとね」と勝ち誇った。さらに、27歳のステフィン・カリーが26得点、22歳のアンソニー・デイビスが24得点、27歳のケビン・デュラントが23得点を挙げた。

 一方のイースタン・カンファレンスでは、2014年夏の右足骨折から立ち直った25歳のポール・ジョージが、1962年にウィルト・チェンバレンがマークした史上最多得点にあと1点に迫る41得点をマークして気を吐いた。

「世代交代の時間を目にしているのだろう。長きに渡って偶像的な存在であり続けたコービーが、若き選手たちに橋渡しをしたんだ」

 ウェスタン・カンファレンスを率いたグレッグ・ポポビッチヘッドコーチの言葉は、今年度のオールスターの意味を分かりやすく物語っているように思えた。

スター選手たちが次の世代に道を開いていく

コービー(24番)はいなくなるが、新たなスター選手たちがリーグを引っ張る 【NBAE via Getty Images】

 実際に今大会では、コービーと同じ世代のティム・ダンカン、ケビン・ガーネット、ダーク・ノビツキー、ポール・ピアースといった大ベテランたちは不在。コービーと同じ年にドラフトされたアレン・アイバーソン、旧友であり仇敵と言える存在のシャキール・オニールは殿堂入り候補として紹介されていた。そんな事実を見ても、“コービー世代”が幕引きを迎えていることは間違いない。

「マイケル・ジョーダン、アイザイア・トーマス、マジック・ジョンソン、チャールズ・バークリー、シャキール・オニールといった選手たちが僕たちの世代に道を開いてくれた。本人たちは気付いてなかっただろうけれど、子供だった僕たちに、彼らのようになりたいと思わせてくれたんだ」

 アイバーソンがセレモニーでそう語っていた通り、常にスーパースターを中心に動くNBAでは、スター選手たちが次の世代に道を開いていく。

 迎えた16年、コービーにとって最後のオールスターで、今まさに全盛期を迎える現代のニュースターたちが存在感をアピールしたのは偶然ではなかったのだろう。ここで過去と現在が見事につながり、おかげで16年のオールスターは綺麗な世代交代のストーリーになったのである。

 コービーがいなくなるのは寂しいが、NBAは大丈夫だ。また新たなヒーローが生まれ、このリーグを引っ張っていってくれる。多くのファン、関係者がそう感じてトロントを去ることができたのだから、16年のオールスターウイークエンドは紛れもなく成功といってよかったはずだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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