シナリオ通りの「延長勝負」を制した日本 最大の関門を突破し、五輪まであと1勝
延長前半、交代出場の豊川が先制ゴール
延長前半6分、豊川雄太(14)がついに均衡を破るゴールを決める 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
最初のカードは後半37分。久保から浅野へFWをスイッチ。あわよくば浅野が試合を決めてくれればという交代だが、セットプレーの防空要員として欠かせないFWオナイウ阿道はピッチに残す判断をしたあたり、やはり「延長勝負」を意識していたのは間違いない。43分にはMF豊川雄太をピッチに送り出すが、こちらにはハッキリと「延長へのアイドリングだ」と指揮官が伝えたと言う。
そして迎えた延長戦。見せたのは交代出場の豊川と、「相手がバテてからが勝負」とあえて得意の攻撃参加を封印し、ここまで守備に徹していた右サイドバックの室屋だった。延長前半6分、攻め上がった室屋が鋭い切り返しから左足でクロスボール。絶妙にコントロールされた速いボールを、巧みにDFの間に入り込んでフリーになった豊川が頭でたたく。「ヘディングは得意なので」と笑った男がゴールネットを揺らして、日本が先制点を奪った。
このあとはヘディングが強い選手を選んだ中で、「それだけでは勝負運を逃す」と指揮官があえて最後に先発メンバーに加えていた中島翔哉が2点を追加。相手の戦意を完全に砕き、勝負あり。「延長勝負」のシナリオ通りに粘りの戦いを続けた日本がイランを下し、準決勝進出を決めた。
「団結に裏打ちされた果敢さ」と「持久力」
「弱い」と揶揄されてきた世代の日本代表だが、五輪まであと1勝 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「しびれる戦いをお見せする」と何度も公言してきた手倉森監督はまさに有言実行だったが、ちょっとしびれすぎだったかもしれない。「わけわからんようになってしまった」という豊川が謎のダンス(?)を踊り、ロッカールームではチーム内で「室屋の歌」と呼ばれる室屋の明治大での応援歌がなぜか熱唱されていた。常にない選手たちの喜びようは、苦しかった試合の裏返しである。
とはいえ、五輪へ至る戦いはまだ終わっていない。最大の関門と目された準々決勝を抜けた価値は大きいが、「次で負けたら意味がない」(植田)。準決勝の相手は未定だが、もしもイラクが出てくるようならば、この世代にとっては過去3度も敗北し、「準々決勝で勝てない世代」というイメージを植え付けられてしまった因縁深い相手となる。植田は「イラクなら自分たちにとって最高の相手。上がってきてほしい」と率直に言い切った。
端的に「弱い」と揶揄(やゆ)されてきた世代の日本代表が、五輪まであと1勝のところまでたどり着いた。その強みは日本人の美徳とされる「謙虚さ」かもしれない。相手をリスペクトして、自分たちを過大評価せず、耐えるところは耐え、欲や色気を出して失敗することがない。その上で勝負と見れば、全員で意思統一をもってリスクを冒す「団結に裏打ちされた果敢さ」がある。そして、それを支えているのは「持久力」という肉体的なベースだ。
これまでの4試合はPKによる1失点のみで全勝。ここまで来れば、この世代が持つ「日本人らしい強み」を貫き、あと1勝を手にすることを願うのみである。