“ブーム”と“激動の1年”を乗り越え 風香GMが振り返るスターダムの5年間

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乗せて大ブレークした岩谷麻優

2015年に紫雷イオ、宝城カイリ、岩谷麻優の「スターダム3人娘」が確立された 【前島康人】

<風香GMの印象に残った出来事・第3位:2015年『スターダム3人娘』の確立>

風香GM 紫雷イオ、宝城カイリ、岩谷麻優の3人は元々人気があったと思います。だけど、実力的に周りにもっとプロレスができる選手がいたので、なかなか上に上がれなかったんです。それは本人たちの焦りというよりも、ファンの人たちが「もっと見たい!」という気持ちがたまっていた時期でもあったと思います。それがちょうど、3人が推されるようになって、お客さんたちのモヤモヤしていたものが晴れた感じになったから、選手層が薄くなった時期でも、逆に盛り上がってきたのかなと思います。

この5年間の成長率だと岩谷麻優が一番! 【前島康人】

 成長の高低差でいったら、やっぱり麻優ちゃんですよね! イオちゃんは14年に赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)を10回防衛して確立されていたし、ほーちゃん(宝城)もスポーツ歴(※ヨットで国体やインカレに出場)があったり、背負ってきたものがあるから、やってくれるだろうと期待していました。それでやってくれたので「やっぱりやってくれた、ありがとう!」という感じでした。

 その中で「麻優ちゃんは?」となって、期待はいつもかけていたけど、いつも裏切られてきたんですね。成長はずっとしていたんですけど、大事なところで逃げ出したり、良くない試合をしてしまったりと。でも、15年4月の「シンデレラ・トーナメント」の時、試合の1週間前に、毎日トレーニングを付き合ったんです。そこで「練習を見てほしい」「アドバイスがほしい」と、このトーナメントに懸けていることが分かったので、この時に麻優ちゃんが変わるんじゃないかなと思いました。それで期待していたら、本当に(トーナメントに優勝して)シンデレラになり、試合も申し分ないものだったので、「来たな!」という感じでしたね。

 元々、自信がない子なんですけど、練習生の中で麻優に憧れる子が多くて、それを聞くたびに、「麻優ちゃん、あの子が尊敬してるって言ってるよ」と伝えると、面白いようにそれに乗ってくれるので(笑)。それで自信をどんどんつけてくれて、そういう細かいところから大きな覚悟を持ってくれたのかなと思いますね。5年が経って、今では『スターダムのアイコン』というキャッチフレーズもついていますし!

後悔しかない出来事に……

15年2月の世IV虎vs.安川惡斗の試合は、日本中に知れ渡るニュースになってしまった 【前島康人】

<風香GMの印象に残った出来事・第2位:15年2月の世IV虎vs.安川惡斗の騒動>

風香GM これは1位でもおかしくない出来事なのですが……。連日、新聞などで取り上げられて、どこに行ってもその話が出ていて、ご飯を食べていたら隣の席から「世IV虎と惡斗って…」という話が聞こえてきたり、私がほかの人と会話をした時に「世IV虎と惡斗の件で…」と言うと、隣の人が聞き耳を立ててきたりとか、本当にあの時期、日本中の人が知ってしまったニュースでした。

(実際に試合を見ていた時に思ったことは?)実は最初の出だしが席の位置で見えなかったんです。どうしてあんなことになったのかがいまいち分からなくて……。でも異様な雰囲気になった時に、私はすぐに「試合を止めましょう。これは絶対に違います」と言ったのですが、勝手に試合終了のゴングを鳴らすことができなかったので、木槌を持って試合を止めましょうというアピールしかできませんでした。

 ただ、ああいうケースが今まで女子の試合ではなかったから、みんなの判断が遅れてしまって、あそこまでになってしまったんだと思います。リングにいた選手も、普通だったら骨が折れたらやばいってすぐに分かるのですが、アドレナリンが出てしまって、選手自身が「大丈夫」と言ってしまったら、レフェリーも止めにくかったりするので。だから本当に難しい判断だったと思います。だけど、選手の命を守らなければいけないというのがあれで分かったので、私も覚悟を持って試合を止める勇気を持ちたいと思いました。どちらが悪いとかはないのですが、今振り返ってみても、後悔しかない出来事でした。

 その後、世IV虎ちゃんと一緒に記者会見をやりましたが、もちろん彼女だけが悪いわけじゃないのも分かっていますがやり過ぎちゃったことは事実です。でも、そこまでの過程も分かっていたから、世IV虎ちゃんを守るためでもあり、会社を守るためにも、まずは謝罪から始めないといけないというのがありました。でもそれが「会社が私を守ってくれない」「自分が悪者にされた」って思ったと思うんです。私の気持ちとしては、世IV虎も会社も惡斗も守らないといけないから、そのために頭を下げたつもりだったんですけど、それが伝わっていなかったから、伝える努力を、あの時もっとしなければいけなかったんだと思っています。

 私としては、世IV虎ちゃんや麻優ちゃんといった、私の現役時代を見てくれた子が一期生にいたから、プロレス教室から団体にしようと思ったし、プロレスから足を洗おうと思っていたのをとどまることに決めたので、自分の人生を変えてくれた子たちだと思っています。だから、やっぱり一緒に最後までやってほしいという気持ちはあります。多分、この件に関しては、世IV虎と惡斗は心のすれ違いもあったと思うけど、またいつか一緒にできればという気持ちです。

 まだ若いからすぐじゃなくても、いつか、私がいなくなっているかもしれないけど、また活躍してほしいですしいつまでも輝いていてほしいです。

逆境から復活できたのはみんなのおかげ

15年下半期の躍進はスターダムみんなの頑張りのおかげだった 【前島康人】

<風香GMの印象に残った出来事・第1位:2015年>

風香GM 1位は、大きくなるんですが『2015年』です!(笑) 全部まとめてですね。2月22日のことがありました。あの件で、もう新人選手が入らないかもと思っていたのですが、逆に、新人の応募が増えて、その新人たちも、「私が大好きなスターダムを支えていきたい!」という覚悟を持った新人が集まり始めました。

 それがジャングル叫女だったり、スターライト・キッド、美邑弘海だったりします。あれを乗り越えたみんなが団結をして、スターダムを守っていくという気持ちになりました。私もそうですけど、選手、練習生、それに入団前の子もその覚悟を持って入ってきたというのが、すごい大きな出来事でした。

 それにお客さんにも、私たちは守られていると思っています。というのも、あの後、今まで1カ月に1回しか来ていなかったファンの方が、「今、自分たちが支えないといけない」と毎週来てくれるようになったりしました。もちろん、離れた方もいたとは思いますが、今まで以上に応援してくれる方がいたから、集客が落ちることもなかったんだと思います。

 ただ、その後に3人娘が確立されて頑張っていたのですが、一度だけ8月の後楽園大会で集客が落ちてしまい、9月は紫雷未央さんが出場するということでまた持ち直したのですが、10月は「本当にやばいぞ」という状態でもありました。その時に考えたのが、新人選手のデビューです。ちょうどその時に3人、デビューできそうな選手がいたのですが、本当は12月中、年内中を目指そうと話していたのです。でも、状況を話して気持ちを確認したら「行きます!」とみんなが答えてくれて、苦戦すると思われていた後楽園大会が新人たちのデビューで満員になりました。だから、3人娘の活躍はもちろんですけど、こういう新人選手たちの頑張りもあったし、11月にはジャングル叫女が最速デビューもしてくれたし、本当にこの1年間は、みんなで盛り上げた1年だったと思います。

 今は本当にいい雰囲気にあって、宝城カイリが頑張って、岩谷麻優が頑張って、でもやっぱり紫雷イオだよねということで、東スポ女子プロ大賞にもつながったと思います。それはイオちゃん本人も言っていることですけど「私は去年表に出ずに、支える立場だった」と。だけどその支える立場でほかの子たちが頑張ってきた結果、やっぱり紫雷イオじゃないとだめだよねという空気になったのが、賞につながったと思うし、15年最後の大会で、里村明衣子さんとの素晴らしい試合(12月23日のワールド・オブ・スターダム選手権、挑戦者のイオが王者・里村からベルトを奪回した)になったと思うし、だからみんなが頑張ってくれたから、支えてきたイオちゃんも報われたし、みんなのおかげだと思っています。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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