プロ1年目を終えた辰吉Jr.の未来 元世界王者も認める寿以輝の可能性

船橋真二郎

父から息子へ「これがプロやで」

プロ3戦目を終えた次男・寿以輝(左)に声をかける父・辰吉丈一郎 【写真は共同】

 目もくらむような閃光の波に捕らえられた。容赦なく浴びせかけられる無数のフラッシュの瞬きの中で、2人は何を思ったのだろうか。

「雷みたいにすごいな。これがプロやで」

 リング史に波瀾万丈の足跡を残してきた父が、ようやく第一歩を踏み出したばかりの息子に語りかけた。控え室に続く通路の途中。大勢のメディアに取り囲まれていた父が息子を迎える形となった。残念ながら、私が立っていた位置からは2人の表情をうかがうことはできなかったのだが、目の前に並んだ背中には、それぞれ強い覚悟がにじんでいるようにも感じられた。

 2015年4月16日、大阪府立体育会館第一競技場。デビュー戦の舞台は山中慎介(帝拳)の8度目の防衛戦のアンダーカードにセットされた。試合前は、かつて父・辰吉丈一郎が巻いていたWBC世界バンタム級のベルトを持つ山中と記者会見にも同席し、アマチュア経験のない4回戦デビュー選手としては破格といえる注目を集めた。計り知れない重圧の中、まだ粗く、硬いながらも2回KO勝ち。緊張も手伝ってか、最後はスタミナが切れかけた。

「へろへろやったやろ?」
「うん、やばかったわ」

 控え室で仲の良い4歳年上の兄貴分で、アマチュア5冠の実績を持つ中澤奨(大阪帝拳)と無邪気に笑い合う姿からは、息子・辰吉寿以輝のプロボクサーとしての日常が垣間見えた気がした。

課題を意識し過ぎてKOできず涙

3−0の判定勝利になったが、力を出し切れなかったからか、試合後は涙を流した 【写真は共同】

 父に連れられて、幼い頃から兄・寿希也さんと一緒にジムに通った。自ら父と同じ世界に飛び込むことを決意したのは16歳のとき。本格的にボクシングを始めたのはそれからだ。昨年11月、18歳でプロテストに合格。実技試験のスパーリングでは左フックでプロ選手からダウンを奪い、やはり各メディアが煽るように取り上げた。90年代にカリスマ的な人気を誇った偉大な父の名を背負って戦わなければならないことは覚悟の上だろう。それでも、まったく実績のない十代の新人ボクサーが背負うには重すぎる宿命と思える。

「こんな大勢の人の前で試合ができるのは、すごく楽しかったです」

 デビュー戦後のリング上でテレビのインタビューに答え、残した言葉は決意表明でもあったのかもしれない。

 あれから8カ月。この12月19日に寿以輝は3戦目のリングに上がった。会場は26年前の9月、父がデビューした府立体育会館の第二競技場。7月の2戦目も2回KO勝ちで終わらせはしていたが、デビュー戦と同じく不用意な被弾もあり、ディフェンスをテーマのひとつに掲げていたという。

 だが、課題を意識し過ぎたからか、今回も硬さは否めなかった。2回に連打でロープ際に詰めたときの足運びはぎこちなく、上半身が突っ込みがちになり、攻勢は長くは続かなかった。最終4回終盤は前がかりに攻め、終了間際に左フックを強引にねじこんだ。2勝1敗の25歳、脇田洸一(クラトキ)の足元がふらついたのは寿以輝が初めて聞いた試合終了ゴングのあとだった。結果は39対37が2者に38対37の判定勝ち。KOができなかった悔しさから控え室では涙を流したという。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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