避けられなかったモウリーニョ解任 暫定監督ヒディンクに託した重要な舵取り

寺沢薫

ヒディンクを「理想的」と見る声がある一方……

モウリーニョの後釜を任されたのはフース・ヒディンク。09年にも一度チェルシーの監督を経験している 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 そんな状況下で後釜を任されたのは、すでに発表されている通りフース・ヒディンクである。オーナーと親交が深いヒディンクは、2009年2月にもルイス・フェリペ・スコラーリ解任を受けてピンチヒッターを任されており、FAカップ優勝とリーグ3位でクラブを救ったサポーターの人気者。モウリーニョというカリスマを失って失望するファンにとっても許容できる人事であることは間違いない。

 また、監督としての特性という観点からも、彼の登板については好意的な見解が多い。

「ヒディンクの才能は、戦術的なものよりマンマネジメント術。自信を欠いたチェルシーに必要なのはそうしたスキルだ。ヒディンクは必ずチームのムードを好転させ、プレッシャーを軽減し、選手個々と向き合える」(『テレグラフ』紙)

「選手たちはモウリーニョより冷静で穏やかなアプローチに好意を寄せるだろう。前回は短期間の指揮だったが、ジョン・テリーはロレックスの時計をプレゼントするほど彼に夢中だった」(『デイリー・メール』紙)

 ただ、少なからず不安も指摘されていることも挙げておかなければいけない。それは7シーズン前にチェルシーを救って以降、彼の輝かしい経歴に傷が付いていているからだ。ロシア代表、トルコ代表、ロシアのアンジ・マハチカラ、そしてオランダ代表と、チェルシー以降のチームではさしたる結果を出せていないのだ。

『BBC』は「選手に自己表現の自由を与え、ベストプレーヤーに自信と信頼を植えつけるスタイル」のヒディンクを「今のチェルシーにとって理想的」なタイプとする一方で、「6年前と同じ監督なのだろうか?」という疑問を添えている。特に直近はユーロ2016への出場権を逃したオランダ代表を予選途中で解任されており、「自信を失ってはいないか?」「もう時代遅れなのでは?」という危惧も少なからず聞かれる。

求められる仕事は多岐に渡る

劇的な改善が求められるチェルシー。ヒディンクはアブラモビッチの期待に応えることができるか 【写真:ロイター/アフロ】

『デイリー・ミラー』紙は、アブラモビッチがそんなヒディンクに依頼した2つのミッションを挙げている。

・降格圏の近くにいるチェルシーのフォームを劇的に改善すること
・クラブを危機から建て直すために必要な変化を見極め、今後の基礎計画を立てること

 その他にも、「ファンの反抗的な空気を沈めること」(『BBC』)、「シャープな守備を取り戻すこと」「スターを再び輝かせること」(『スカイスポーツ』)など、求められる仕事は多岐に渡る。

 その手助けを、ヒディンクはディディエ・ドログバに頼みたいと考えている。サンダーランド戦のVIP席でアブラモビッチ、ヒディンクとの3ショットが見られたチェルシーの元英雄は、アシスタントコーチとしてクラブに復帰することを要請されているという。

『デイリー・メール』紙は「昨シーズン、ジエゴ・コスタのよき師匠として役目を果たしていたドログバの存在は、彼を以前の姿に戻す手助けになるかもしれない」とドログバ起用の効果を予想している。また、MLSのモントリオール・インパクトとの選手契約があと1年残っているが、チェルシーは「説得可能」と見ている。もし近々こちらも発表されれば、応急手当ではあるがシーズン後半戦を乗り切るための準備が整うことになる。

 ただし、ヒディンクはあくまで暫定監督である。チェルシーは過去にも、シーズン途中で監督を解任した際には同じアプローチを執ってきた。ヒディンク自身もそうだったし、以降もロベルト・ディマッテオ、ラファエル・ベニテスが中継ぎ登板を経験した。ディマッテオがそのまま正式監督に登用された例もあるが、69歳という年齢を考えてもヒディンク続投は考えにくい。

 モウリーニョが夢半ばで諦めざるをえなかった長期政権による王朝建設は、クラブにとってまだ悲願のまま。シーズンが終われば、若く、カリスマ性のある新監督がやってくるのは間違いない。今季限りでのバイエルン・ミュンヘン退団を発表したばかりのジョゼップ・グアルディオラ、アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ、イタリア代表のアントニオ・コンテ……それが誰になるのかは夏のお楽しみだが、新監督候補と気持ち良く交渉するためにも、その前にクラブをあるべき姿に戻さなければいけない。

 スタンフォード・ブリッジに“モウリーニョの亡霊”が居座るチェルシーを、ヒディンクは正しい航路に戻すことができるのか。シーズン後半戦のために、そしてクラブの未来のために。

 極めて重要な舵取りは、百戦錬磨のオランダ人指揮官に託された。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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