箱根V2最有力、青学大はなぜ強い? トレーナー中野氏が重視する基礎の徹底
肩甲骨を動かす重要性
体幹の強化だけでは推進力は生まれないと中野氏は指摘する 【写真:アフロスポーツ】
一番は体幹が安定してきたということです。体幹を安定させることはどこの大学もしていると思います。ただ、青学のトレーニングで1つ重要なところなのですが、体幹だけができていくだけだと、推進力が生まれません。結局、肩甲骨が動かないとだめなんです。
――なぜ肩甲骨の動きが重要なのですか?
体幹が安定していて肩甲骨が動いていると、頭と体幹が動かないで肩甲骨だけが動いてまっすぐに進みます。でも体幹がついているけど肩甲骨が動かない選手が腕振りをすると、体が全部持っていかれてしまうんです。そうすると骨盤から(フォームが)ブレてきてしまうので、足がどうしてもブレて、膝や股関節などが痛くなってしまいます。なので、肩甲骨周りを動かすことを徹底的に意識して、嫌というほどウオーミングアップに組み込んでいます。体幹がしっかりついてくると体が安定して肩甲骨が動いて走る。これは当たり前のことなんだけど、それをみんな知らないでやっている。だから準備運動やストレッチもやってはいますが、体幹トレーニングと連動したものをやっていないし、そもそも体幹トレーニングも違っています。
――中野さんのトレーニングをもっともマスターできている選手は?
やはり故障期間が長かった久保田(和真)でしょうか。私が来た年はほとんど走れていなかったので、補強トレーニングをするしかない。体幹トレーニングをひたすらやり続けてきたということもありますが、そういう意味では頑張ってきたと思います。一色(恭志)もそうですね。彼はもともと持っているものは強かったのですが、体幹を使うだけしかしていなくて、ロボットみたいに走っていました。今はバイアスがかかりひねりが入った力強い走りになってきた。そこは一色が大きく変わったところではありますね。
故障者ゼロが一番うれしい
高校時代から実績のある一色も、中野氏のトレーニングでより力強い走りに変わった 【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ】
選手によってそれぞれ違います。ただ、私が出してきたメニューは長距離ということを前提にしていて、短い距離で爆発的な強い力をひねり出すことが優位な体作りをしてきていません。箱根駅伝の距離(20キロ程度)を走ることを目安に考えているので。長い距離ではインナーマッスルが重要になってきます。長い距離でアウターマッスルを使ってしまうと、アウターの方が酸素を過剰に使われてしまうので、エネルギーも早く使われてしまうんです。もちろんアウターもゼロではないんですけれど、インナー優位に持っていくことが長距離には必要です。短距離の場合はアウター優位で持っていくことが重要で、この中間点にしていくことが非常に難しいですね。
――最後に青学の選手への期待を込めて、一言お願いします。
私が選手たちに何かを教えていると周りの人は思っているかもしれませんが、私や一緒に青学をサポートしている弊社のトレーナーたちも含め、私たちが教えたことの3倍も4倍も学生から教えてもらうことの方が多いんです。いつも「中野さんのおかげで」と言ってくれてとてもうれしいのですが、それ以上にみんなから成長させてもらっています。
あとはけがをしないでほしいということですね。10月は初めて全く走ることができないレベルの故障者がゼロだったんですけれど、大学スポーツで故障者ゼロってほとんど無いんですよ。私たちが入ってきた時も故障者だらけでした。でも、他大学に比べて故障者がものすごく少ないのは、やっぱりみんながしっかりやってくれているということ。故障者がゼロになったのは、トレーナーとしては一番うれしいことですね。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)