振付師・宮本賢二から見た羽生結弦の魅力 自分に厳しい「無邪気な20歳」への期待
イヤホンの説明に苦笑い
羽生のイヤホンへのこだわりは有名。宮本にも丁寧に説明してくれたそうだ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
難しいですね(苦笑)。でも昨シーズンのショパンのプログラム(『バラード第1番ト短調』)はぴったりだなと思いました。もし去年とか一昨年にそういう話が来ていたら、たぶんああいう曲を選んでいたんだろうなと思います。2年前に滑っているのを見て、「ピアノ曲に合いそうやな」と勝手に思ったんですよね。今はだから逆に難しいです。何をと言われたら分からないし、本人の意思が一番ですしね。
――羽生選手はどんな性格ですか?
普通の無邪気な青年という感じです。興味があることを、とことん追求する人なんだなと思います。
――どういったことに興味があるのでしょうか?
例えば音楽機器とかです。イヤホンは有名ですよね。僕はそんなに詳しくないので、「どういうこと?」って聞いたら、まあ最初は何言っているか分からないじゃないですか。「全然分からんわぁ」って言ったら、一つ一つ丁寧に説明してくれるんですよ。「優しい子やな〜」って(笑)。「丁寧に言っても俺はあんまり分かってないけどな」という表情をしたら、「分かってないでしょ、先生」ってもう一度きっちり(苦笑)。もっと分かりやすいように説明してくれる。だから、バス移動はすぐ時間が経っちゃう。それくらい常に何にでも一生懸命な子なんです。集中力が切れて休むというときは、本当に何もしませんからね。そんな感じです。使い分けているんだと思います。
――イヤホンについて細かく説明されて、最終的には理解できましたか(笑)?
できてないです(笑)。でも良いものは良いんだなということは分かりましたけど。
以心伝心の出来事に驚き
羽生とは以心伝心のような感覚が生まれたことがあるという 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
「僕からは何も発信してないし、賢二先生も何かを発信しているわけじゃないけど、たぶんお互いに思っていることが、発信や受信したときに一致するんですかね」と言われたことはすごくびっくりしました。僕は振り付けのときに何も言わなかったんですけど、こういうふうにしてほしいなと思ってやったことを、勝手に向こうで受け止めてくれてたり、向こうがこうしたいなというのを僕が知らないうちに受け取って、もうちょっとこうしようというのを説明したり。それを言われたときはドキッとしましたね。
――以心伝心ですね。
というふうに僕は感じました。振り付けが終わったあとに話したので、そういう感覚的な部分もいろいろあるんだなと思って。言わなくても伝わることがあれば、言っても伝わらないこともある。そういう不思議なこともあるんだなと思いました。
――感覚が同じということはうれしくもありましたか?
そうですね。それは別に羽生くんじゃなくて他の人でもそうだし、やっぱりうれしいです。
――人間としての魅力はどこに感じますか?
普段は知りませんからね(笑)。良い奴だし、男前だし、さわやかだし、きっちり喋るし、人間的には良いでしょう。僕なんかがちょっと人に頼まれて「サインお願い」って言っても「いいですよ」とすごく明るくやってくれるし。
――今後の羽生選手に期待することは?
全種類の4回転を跳んでほしいですね。だって彼ならできそうでしょ。あと4回転半も。なんかもう突き抜けた感じでやってほしいなと思います。
――それを羽生選手には伝えたのですか?
それらしきことは言いましたね。「ちょっと4回転全部跳んでよ」とか。そうしたら「あ、今それやってます」みたいな軽い感じで返ってきて(笑)。やっぱり天性のものがあるんですよね。素晴らしいなと思いました。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)