ハミルトンの強さは走りだけにあらず 過去の偉大な王者と同じ資格を持つ

田口浩次

トップクラスの走りと運の強さ

圧倒的な強さで3度目のワールドチャンピオンに輝いたハミルトン。過去の偉大な王者同様、“勝てるマシン”で頂点を極めた 【Getty Images】

 史上10人目となる3度目のワールドチャンピオンに輝いたルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)。その強さはまさに圧倒的だった。

 個人的な話で恐縮だが、ハミルトンが王座を獲得したアメリカGPの後、元F1ドライバーでスーパーフォーミュラ王者の中嶋一貴氏、弟でスーパーフォーミュラドライバーの中嶋大祐氏、そして、かつてトールマンやベネトンのメカニックとして活躍したジャーナリストの津川哲夫氏と食事をする機会があった。話題は、自然とハミルトンのチャンピオン獲得に。レースの酸いも甘いも知る3人の意見で共通していたのは、「ハミルトンの走りのキレは間違いなくトップクラスである」こと、さらに「過去の偉大な王者がそうであったようにハミルトンは幸運を引き寄せている」ということだった。

 ハミルトンの走りは、単純に速くてうまいというものではなく、その思い切りの良さや、強引な部分なども含め、オーラのようなものを感じさせる。そんな一面は、今年の日本GPでの2コーナーまでのオーバーテイクであり、アメリカGPの1コーナーでのニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)を押し出してまでも前に出る姿に集約されている。同じ条件のマシンならば、決して負けないと思わせるだけの迫力がある。

 そしてもうひとつ、これが重要なのだが、ハミルトンの運を引き寄せる強さだ。アメリカGP決勝、48周目でのロズベルグのミスは、ハミルトンのプレッシャーが招いたとも言えるが、ロズベルグも百戦錬磨のドライバーであり、自分が有利な状態でそうそうミスをすることはない。それ以前に、43週目にダニール・クビアト(レッドブル)の単独クラッシュがなければ、2位で追い上げつつタイヤ交換の必要がなかったロズベルグに対して、もう一度タイヤ交換の必要があったハミルトンに優勝のチャンスはほぼなかった。下手をすれば、タイヤ交換なしの選択肢も残っていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)にも負けていたかもしれない。だが、ハミルトンは勝った。運も味方したのだ。

リスク取り“勝てるマシン”を引き寄せる

「勝てるマシンに乗ることも王者の資格」と津川氏は言った。もし、フェルナンド・アロンソ(マクラーレン・ホンダ)がメルセデスにいたらチャンピオンはアロンソかもしれないし、ベッテルがメルセデスにいたらやはりチャンピオンかもしれない。しかし、メルセデスのシートはハミルトンとロズベルグのものであり、ハミルトンはチームメートを圧倒した。

 何より、2012年シーズン中、当時ランキング3位のマクラーレンより成績が悪かった、ランキング5位のメルセデスへ移籍するリスクをハミルトンは取った。その結果、14年に最高のマシンを手に入れた。次に勝てるマシンをどのチームがつくり上げるかは、誰にも予測できない。にもかかわらず、ハミルトンは“勝てるマシン”を引き寄せた。

 1987年に再び日本GPが開催され、日本で空前のF1ブームが起きた。それ以降の王者を振り返ると、ライバルを圧倒するマシンに乗ることなくチャンピオンになったのは、94年のミハエル・シューマッハ(ベネトン)、05、06年のアロンソ(ルノー)、そして08年のハミルトン(マクラーレン)だけだろう。特にルノー時代のアロンソは薄氷の王座獲得で、当時のルノーは予算もマシンも決してトップではなかった。どんなに才能に恵まれたドライバーであっても、マシンの競争力が足りなければ勝利、ましてや総合力が問われるチャンピオン獲得は難しい。

 過去3回以上の王者に輝いたドライバーは、今年達成したハミルトンを含め10人。その名前を見ると、シューマッハ(7回)、ファン・マニュエル・ファンジオ(5回)、アラン・プロストとベッテル(各4回)、そしてジャック・ブラバム、ジャッキー・スチュワート、ニキ・ラウダ、ネルソン・ピケ、アイルトン・セナ(各3回)と、当時最強のマシンを手にし、チームメートを打ち負かして頂点に立ったドライバーばかりが並ぶ。まさに津川氏の言う「勝てるマシンに乗ることも王者の資格」という言葉の裏づけだ。

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