ヤクルトの「陰のMVP」中村悠平 野村コーチと二人三脚でつかんだ自信

菊田康彦

投手陣の力投を引き出した中村

日本シリーズ進出を決めバーネットと抱き合う中村。バッティングではノーヒットに終わったが、野村コーチが「陰のMVP」と呼ぶように、投手陣の力を十二分に引き出した 【写真は共同】

「陰のMVPは中村(悠平)ですよ!」

 東京ヤクルトが巨人を3対2で下し、14年ぶりの日本シリーズ進出を決めたセ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第4戦。試合後のセレモニーを終え、クラブハウスに引き揚げてきた野村克則バッテリーコーチはそう声を張り上げた。

「よう頑張った、中村は。今日も、ほぼほぼピンチだったから。ウチが最初に点を取った後は(追加点を)取れず、阿部(慎之助)に打たれて試合は分からなくなっちゃったしね……ホントによう頑張った」

 この試合、シリーズ突破に王手をかけて臨んだヤクルトは、2回までに3点をリードしながらその後は追加点を奪えず、5回に阿部の2点タイムリーで1点差に詰め寄られてからは、防戦一方となった。それでも先発の杉浦稔大からオーランド・ロマン、久古健太郎、秋吉亮、ローガン・オンドルセクとつなぎ、最後は守護神のトニー・バーネットが締めくくるという、シーズン同様の粘り強いゲーム運びで白星をもぎ取った。

 シリーズのMVPに選ばれたのは2番バッターの川端慎吾。打率4割6分7厘とバットでチームをけん引したその川端とは対照的に、打つほうではノーヒットに終わったものの、4試合で計6失点という投手陣の力投を引き出した捕手の中村は、野村コーチの言う「陰のMVP」にふさわしい。

相川の移籍で芽生えた正捕手の自覚

 今年でプロ7年目、25歳の中村は過去3年、チームで最も多く先発マスクをかぶっていたが、それでもベテラン相川亮二の存在は小さくなかった。それだけに常に「相川さんと勝負して勝ちたい」と公言してきたものの、その相川がFAで巨人に移籍した今季は、否応なく一本立ちを迫られた。正捕手としての自覚は、そこで初めて芽生えたと言ってもいい。

「今年は休みの日も野球のことばかり考えています。新たにiPadを導入して、スコアラーさんに映像を入れてもらっているんで、その映像を休みの日だったり、遠征に行った時でも見るようにしています」

 中村がそう話したのは、今年の春先のことだった。きっかけは野村コーチに「映像を見とけよ」と言われたことだったというが、それからは相手の打者をどう攻めるか、映像とにらめっこしながらしっかりイメージするようになった。今や対戦するチームの映像を見るのは生活の一部。「見ないと落ち着かないですから」と笑う。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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