W杯に向けて変化したエディージャパン 指揮官に「だまされた」4年間

斉藤健仁

苦手だったハイパントキャッチを繰り返し練習

WTB山田らバックスリーはキック処理も安定していた 【Photo by Yuka SHIGA】

 また、エディー・ジャパン発足当初はキックを蹴りたくても蹴れなかったという事情もあったようだ。当然、タッチに出なかった時は、身体能力の高い世界の強豪はハイパントを蹴ってくる可能性も高い。そのボールの処理がバックスリーの選手たちがあまりうまくなかったという。バックスリーの選手たちが今年に入って練習で取ったハイパントの数は5000本を超えた。「ハイパントキャッチが下手だったのが、取れるようになりましたね」(沢木敬介コーチングコーディネーター)

 キックの使い方以外に、3勝を挙げた要因の一つは、もちろんセットプレーの安定である。4試合を通してスクラムの成功率は何と100%(28/28)、そしてラインアウトは93.5%(43/46)。「世界の強豪と戦うためにはセットプレーの成功率は9割必要」と、2012年の4月にジョーンズHCが言っていたことを有言実行した形だ。

ラインアウトはW杯ではまったく違うサインに

サモア戦ではスクラムを押し込んで認定トライを奪った 【Photo by Yuka SHIGA】

 スクラムはやはり、大会直前の9月5日に戦ったジョージア戦の勝利で手応えをつかんだ。ジョージアとは昨秋対戦し、スクラムで圧倒され敗戦していたが、10カ月ぶりの再戦で、スクラムで互角以上に戦い勝利。海外のあるサイトでは予選プールの「ベスト15」にも選出されたPR山下裕史は「やっぱり、この勝利が(ワールドカップに向けて)自信になりました」と胸を張った

 またラインアウトはドライビングモール、サインプレーのトライの起点となった。攻撃を支えていたと言っても過言ではない。スティーブ・ボーズウィックFWコーチ、ラインアウトリーダーのLO伊藤鐘史の功績は大きい。動き主導で、相手のギャップを突いて、相手より速く、高く跳んだ。HO堀江翔太らのスローイングも安定していた。また直前の試合とはまったく違ったサインで跳んだ。「直前で(サインを)見せたらバカじゃないですか!」とある選手が言ったように、ここでも賢く戦っていたというわけだ。

エディージャパンの誇りを19年に

強烈な印象を残したエディージャパン。この輝きを2019年につなげることができるか 【Photo by Yuka SHIGA】

 こうして振り返ると、ワールドカップの予選プール4試合は、エディー・ジャパンの4年間の積み重ねと、先見の明と戦略、そしてピーキングと「ワールドカップを熟知する」ジョーンズHCの存在なしでは語れない。特に、この4年間が南アフリカ戦に凝縮されていたと言えよう。試合終了間際に、交代したばかりのWTBカーン・ヘスケスがトライを取るなど、その采配も光った。

 残念ながらジョーンズHCはワールドカップ敗退とともに日本を去ったが、3勝を挙げた選手たちは「歴史を作った男たち」になった。31名の中には、2019年のワールドカップに出場する選手もいれば、そうでない選手もいるはずだ。ただこの先の4年間、「エディー・ジャパンで戦った誇り」を胸に周りの選手たちに刺激と影響を与えつつ、自ら努力して次大会につなげてほしい。そして新しい指揮官の下、今度こそベスト8進出を実現する原動力となれ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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