「未来を変えた」今治に期待すること 四国リーグ首位決戦を制し、優勝に王手

宇都宮徹壱

四国での切磋琢磨は全国に通用するか?

トラスターとの首位決戦を制し、会場につめかけたファンにあいさつする今治の選手たち 【宇都宮徹壱】

「これまでやってきたことが結果につながってほっとしています。今日の試合はとにかく勝つこと。それも1−0で満足することなく、できるだけ点差をつけたかったので、リスクを冒して飛び込んでいったのがよかったと思います」(木村孝洋監督)

「5−1というスコアには正直、驚いています。これで得失点で(トラスターを)上回ることができたので、次の最終戦もしっかり勝って優勝を決めたいです」(長尾)

 試合後、今治の選手やスタッフの表情は重圧から解放された安堵(あんど)感に満ちていた。ライバルとの直接対決に勝利しただけでなく、大量得点で圧倒したのだから当然だろう。これで両者は勝ち点34で並んだわけだが、得失点差で今治が51、トラスターが50となり、ほんのわずかな差で今治が再び首位に立った。もちろん、まだ最終節を残しているので楽観は禁物だ。それでも、最終節で対戦するllamas(リャーマス)高知FCにはホームで大勝(6−0)していること、試合会場の関係でアイゴッソ対トラスターが先に行われることを考慮すれば、首位に返り咲いた今治が優位にあることは間違いないだろう。

 一方、思わぬ大差で敗れたトラスターの川田尚弘監督は「今の心境ですか? ビター(苦い)ですね」と唇をかみ締めながら、今治との差についてこう語った。「僕らが普段あまり気にしていなかったこと、曖昧にしていた小さなことを、彼らは日々突き詰めていた。その結果がスコアに現れたんだと思います。言い訳にはしたくないけれど、僕らは働きながらのチームなので、週2回のトレーニングだとやっぱり限界はありますね」。指揮官が指摘するとおり、トラスターとの今治との環境面での差は歴然としていた。それでも彼らは、第6節での直接対決に勝利して以降、ずっと四国リーグ首位の座を守り続け、今治にプレッシャーを与え続けてきたのである。どんなに予算や戦力があっても、簡単にJFLに昇格できるわけではない。そこに地域リーグならではの難しさと大変さと面白さがある。

 かくして、四国リーグ優勝に王手をかけた今治だが、JFL昇格のためには岡田オーナーをして「さらに厳しい大会」と言わしめる全国地域リーグ決勝大会(地域決勝)を勝ち抜かなければならない。全国9つの地域リーグ王者が集結するこの大会で、昇格の権利を勝ち取るのは決して容易ではない。ましてや今治の場合、今季の四国リーグで圧倒的な力の差を見せつけられなかったわけで、相当に苦しい戦いを強いられるのではないか──というのが、これまでの私の見立てであった。だがこの日のゲームを取材して、少しその考えが変わった。

 かつては関東や九州や北信越などに比べて、競技レベルがやや落ちるとされてきた四国リーグ。だが、トラスターやアイゴッソとの切磋琢磨(せっさたくま)を繰り返したことで、今治は全国で戦えるだけの経験と自信を積み重ねることができているのではないか。そんな仮説を検証する意味でも、10月17日から岩手県で開催される全社(全国社会人サッカー選手権大会)での今治の戦いに注目したい。もちろん私も、引き続き現地からレポートする予定だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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