「選手のこだわりをより美しく見せたい」 フィギュア振付師・宮本賢二が持つ信念
選手のこだわりをより美しく見せたい
振り付けが終わったあとに、汗を流して一生懸命練習している選手を見るのが一番うれしいです。もちろん試合で勝ったとか、点数が上がったというのもうれしいんですけど、順位が付くところではやっぱり順位が下がる選手もいる。それは試合だから仕方ないんですけどね。
――振付師として一番こだわっているのはどういう部分ですか?
逆にこだわりがないところですかね。僕のこだわりを選手に押し付けるのは嫌だなと思っています。それだったら選手のこだわりをより美しく見せたい。だから、振り付け前は選手とよく喋ります。振り付けのときはだいたい擬音しか出ないんですけど、どういうふうにしていきたいかというのは選手と頻繁に話します。
――人見知りだという話ですが、初めて会う選手は緊張しますか?
緊張はします。ただ人見知りだからといって喋らないのはプロではないので(苦笑)。ただ、普段は人と喋らないですよね。気がついたら夕方コンビニでお釣りをもらうときに「あ、どうも」というのが「あ、その日初めて出した声やな」っていうときもあります(笑)。
――振付師にとって最も必要な要素は何でしょうか?
その選手に対して、どれだけ一生懸命考えられるかというのが一番必要じゃないですかね。あとは体調管理。
競技プログラムからアイスショーの振り付けまで。多忙な宮本(右)にとって、体調管理は重要 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
決められたスケジュールで動くので、風邪も引いていられないし、けがも絶対にしちゃいけない。それはもうめちゃめちゃ気をつけています。ここ最近、風邪は全然引いていません。
――予防するために何かしていますか?
早く寝て早く起きる。ストレッチをする。ご飯はしっかり食べるとか、そういうところですね。選手は楽しみに待ってくれていますし。怖がって待っている選手もいますけど(笑)。振り付け中は超怖いですからね、僕。
――その選手に伸びてほしいという気持ちですよね。
もちろん。お互いに一生懸命ですからね。なあなあでやりたくないし、時には選手は「怖い」って言うんだろうなとは思いますけど、仕方ないです。
一番振り付けをしたくない人とは!?
映像の振り付けなんかもしてみたいなと思います。あと平面だけじゃなくて空中での立体的な振り付けだとか。テレビCMでそういうのがあれば楽しそうだなと思います。あとはスケートで絵を描いたりとか。今は動画でスケートを見ますけど、写真であったり静止画でもきれいなものがあるんだろうなと。そういうのもやってみたいと思います。
――今後、振り付けをしてみたい外国人選手はいますか?
ポリーナ・エドモンズ(米国)やデニス・テン(カザフスタン)ですね。海外だったらそういう人たちをやってみたいなと思います。
宮本は今後、振り付けてみたい外国人選手にポリーナ・エドモンズ(写真)やデニス・テンを挙げる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
デニス・テンは表現が素晴らしい。そしてやっぱりスケートが非常に上手なんですよね。ポリーナはどんな種類のどんな表現でも、どんな色をつけてもいろいろできそうだなと。すごく真ん中にいる選手というか、偏っていないので、いろいろ表現ができるんだろうなといつも思います。逆に、一番振り付けをしたくないのはステファン・ランビエールです。あの人はすごすぎる。
――具体的に何が?
全部です。スケーターからしたら、あの人のスケートはおかしいんですよ(笑)。「えっ、そんなことするの?」というようなことばっかりするので、スケーターが見ていて一番おもしろい人です。あの人からもし振り付けの話が来たら、たぶん僕は断る選択も考えるだろうなと思います。
――それでも是非と言われたら?
言われたらやりますけど、なんかすごい緊張するな。あの人はもう別世界だなと思います。
――振付師としての理想像はありますか?
常に4番手以下の存在でありたいです。選手、保護者、コーチの下でありたいです。なぜなら振付師は裏方だから。常にその人たちの意見を聞くようにして、選手が一番良くなるように考えていたいなと思います。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)