振付師・宮本賢二が語る過去の教え子たち 「高橋大輔は何をやらせても格好良い」

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あえて背伸びをさせる

――今季新たに振り付けを担当した永井選手や山本草太選手(邦和スポーツランド)には、どういった印象を抱きましたか?

 永井優香ちゃんはとにかく一生懸命やる選手ですね。いつもはふわっとしている雰囲気なんですけど、いざ氷上に立つと鋭い目線で観察するというか、突き詰めるというか。すごい努力家なんだなと思いました。

 山本草太くんは(ショートプログラムで)『ポエタ』をやったんですけど、僕が見てきれいな形や格好良い形を指摘したときに、鏡でしっかり自分で見て、それをもう少し角度を変えたりしていました。そういう意味では、2人とも努力家だなと思いましたね。才能なんて、みんな持ってるんですよ。それを努力で伸ばすかの問題で、やっぱりこの子たちは才能もあって努力もするんだなという印象はあります。

宮本は今季、山本草太にショートプログラムの『ポエタ』を振り付けた 【Getty Images】

――一咋シーズンから本郷理華選手(邦和スポーツランド)の振り付けもされています。本郷選手は昨季、急成長を遂げた印象がありますが、宮本さんは変わったと感じる部分はありますか?

 ちょっと背が高いじゃないですか(166センチ)。普段は分からないですけど、演技しているときはちょっと肩が上がるんですよね。それを彼女も聞くのが嫌だろうなと思うくらいずっと言っていたので、最近は肩がシュッと下りて、首も長く見せられるようになったかなと。手足の長いあのスタイルで踊っているし、より素晴らしくなったと思います。

――若手の選手を振り付ける際、彼らの武器を最大限生かすようなプログラムを作るのか、それとも少し背伸びをさせるプログラムを作るのでしょうか?

 少しだけ背伸びをさせるようにします。その子に合ったものだけをすると、1年間それをやるので、やっぱり慣れてしまうんですよね。慣れてしまうと動きは小さくなるし、見ていて感じるものが少なくなる。だからちょっとだけ難しくて、しんどい中でやっていたら、試合のころには、それがぴったりはまるようになるというような振り付けをしています。

――最初は苦労しそうですね。

 そう。でもその必死に動いている姿が素晴らしく見えるんですよ。だから慣れてしまうとちょっと良くないので、あえて背伸びをさせています。そしてその結果、選手は全員伸びています。

最高のプログラムができるまで

――トップの成熟した選手に振り付けをするときの楽しさと難しさは、それぞれどういった点が挙げられますか?

 例えば、荒川静香や高橋大輔といった人たちは、僕が思っている以上に大きく動くんですよね。だから僕が1を言うと10の動きをしてくれるし、「そんな動きができるの?」という動きを自然とやってくれるので、振り付けがどんどん広がるというか。僕がシュッと一本描いたものに羽を生やすように、葉っぱを生やすように、花を咲かすように大きくしてくれるんです。やっぱりそれが素晴らしいなって思います。

 難しいなと思うのは、こっちにシュッて線を描いたのに、あっち側で花を咲かせてしまったりすることですね。それは選手自身のこだわりであったりするんです。でも、それをそのまま振り付けに生かしてしまうと今までと変わりがないから、「これはやめて、こっち側にやりましょうよ」というのがなかなか難しいです。癖であったりもしますから。

――かつての高橋さんのように、自分を見せる術を知っている選手の新たな面を出すためにはどのような工夫をしていますか?

 難しい質問ですね。あの人は何をやっても格好良いんですよ。ああいうトップクラスの選手には、とにかく常に刺激や意外性を与え続けないといけないと思いながら振り付けをするので、超大変です(笑)。

――具体的にどういうことが大変でしたか?

 フリーレッグの位置一つでもそうですし、普通にやればきれいな形なんですけど、それをどう少し崩してより美しく見せるかといったことですね。ただ普通のアティテュード(バレエにおける技法の一つ)にするだけじゃなく、それに対して手は逆の方向にするとか。基本的にバレエの動きなんかをどう変えていくかというのがすごく難しいです。

宮本が一番のお気に入りだという高橋大輔のプログラム『eye』。高橋は何をやっても格好良いという 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――今までで一番お気に入りのプログラムは高橋さんの『eye』だったということをメディアでもおっしゃっていますが、それはどういったところが最高だったと思えるのでしょうか?

 もう全部です。曲もそうだし、ジャンプもそうだし、スケーティングもステップも表現もすべて好きです。選曲の時点で、高橋大輔からcobaさんというアーティストで好きな曲があるんだと言われて、でも曲名は分からないと。そう言えば「俺もすごい好きな曲がある」と持っていったら、それが偶然一緒だったんですよ。まずはその偶然から「何かある」と思って。

 それで、作っていったらやっぱり素晴らしい。あのときはルールでステップが2つあったんですけど、どっちもレベル4もとっているし、つなぎもしっかりある。僕は本当に世界一のプログラムだと思っています。

――最高のプログラムができたのはなぜだったのでしょうか?

 選手と先生の努力だと思います。そこに僕がちょっと振り付けで参加させていただいたというくらいです。

――最高のプログラムはどのようなときにできると考えていますか?

 一生懸命にみんなが頑張ったときですかね。そんなポッとアイデアが出てパッとやったものが素晴らしいものだとは思わないですし、僕自身が振り付けたプログラムで順番はないんですけど、一生懸命みんなで作ったものはすべて最高のものだと思っています。

――ご自身が振り付けを担当した中で、一番インスピレーションを掻き立てられた選手は誰ですか?

 全員ですね。高橋大輔はもちろんすごいなと思うし、小さい子でも例えば言ったことを勘違いして動いたものが素晴らしくきれいだったりとか、どの選手にもいつも驚かされるんです。だから本当に全員がすごいなと思います。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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