「選手のこだわりをより美しく見せたい」 フィギュア振付師・宮本賢二が持つ信念
振付師としての宮本はどう形成されたのか。ルールとアーティスティックな部分の間で抱く葛藤、日ごろの生活で気をつけていること、影響を受けた恩師、さらには今後挑戦したいことまで、余すことなく話を聞いた。
ルールの中で美しさを精いっぱい求める
ルールの中で美しさを追求する宮本。選手には生活においても普通のことを求める 【スポーツナビ】
もちろんありますけど、それがルールですからね。秒数も曲も決まっているので、そこは別に何とも思わないです。
――とにかくルールに則ってと?
そうですね。エキシビションだと極論ジャンプなんて跳ばなくていいし、曲もなくていい。もちろん跳んだ方がいいから跳びますけどね。でも試合になると、素晴らしいものができたとしてもやっぱり点数もつくし、順位もつくわけですよ。(選手には)去年より1点でも1位でも上がってもらいたいので、そこは仕方ないですよね(笑)。
――美しさに対するこだわりは相当ありますよね。
もちろん。ルールの中では精いっぱいやります。
――選手時代からそうしたこだわりはありましたか?
どうでしょうね。振り付けをするようになってから、選手を見るときに「もっときれいに見せられるのに、なんでこうしないの」と思うようになったかもしれません。選手はやっぱり最初にそう言われても分からないんですよ。「ん?」って感じで。それを鏡の前で見せて「ほら、きれいやろ」って言うと「ほんまや」って喜んでくれるから、それで追求していったのかなと思います。
――普段の生活にも美しさを求める?
美しいかどうかは分からないんですけど、猫背で歩かないとか、靴はそろえるとか、鞄は閉めておくとか、普通のことはしたいなと。今、肘をついてますけど(笑)。ご飯は音を立てないとか、寝癖をつけたまま仕事に行かないとか。そういうのは気にしますよね。女の子がすっぴんで来たら「君、すっぴんで来たの?」とか(笑)。あときれい好きではあります。
最も影響を受けた振付師
もういっぱいいます。樋口豊先生、樋口美穂子先生もそうだし、ローリー(・ニコル)、ニコライ(・モロゾフ)、デヴィッド(・ウィルソン)、シェイリーン(・ボーン)もそう。ライバル視なんてできません。あの人たちのプログラムをいつも盗んでますからね。まねはしませんよ。コピーもしませんけど、「ええ勉強になるわ〜」っていつも見ています。あ、あとパスカーレ(・カメレンゴ)も入れておいてください。何かで読んだら怒られる(笑)。
多くの振付師をリスペクトし、参考にしているという宮本。樋口美穂子(右)もその1人 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
あの人は上半身の使い方がうまい。あとローリーさんはやっぱりルールに則ってというのが上手ですよね。ステップはレベルをしっかり取る。スピンの時間もきちんと取る。それをレベルを取るためだけにやる、ここは表現するところと使い分けない。全部が一緒に見えて、一つの作品として素晴らしいなと思います。
――モロゾフさんは?
激しいですよね、表現の仕方が。あと感情をよく出せるというか。そういうプログラムが素晴らしいと思います。
――最後に付け足したパスカーレさんは?
あの人は格好良く見せるのがうまいですよね。あと男性らしさ、女性らしさというのを見せるのが上手だなと思います。
――それらを全部取り入れたものが宮本さんのプログラムになりますか?
そうなりたいなと思うんですけどね。日本では樋口美穂子先生もやっぱり曲の理解が素晴らしいし、それをどう選手に伝えるかというのもうまい。樋口豊先生もこう自分の「こうなってほしい」という美的感覚がすごい。美意識も高いし、そういったところを見習いたいなと思っています。
――一番影響を受けた振り付け師は?
それは樋口豊先生ですかね。「私は振付師じゃない」と言われるんですけど、僕は弟子だったので、やっぱりあの人の下でやっていて良かったなといつも思います。
――具体的にどのようなところに影響を受けていますか?
普段の生活のところが一番ですね。さっき話した靴をそろえるだとか。やっぱりそうしたところが氷の上で出るんですよ。普段だらしない人は、氷の上でもだらしなく見える。普段の生活がリンクの上でも出ると僕は思っています。僕が受け持っている選手は、みんなとてもきれいにしていますね。